日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
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所報第31号:B30頁〜 日蓮宗ビハーラ講座開設に向けての研修レポート ←前次→


 日蓮宗医療問題研究会

     日蓮宗ビハーラ講座開設
に向けての研修レポート

   @ 目 的
 日蓮宗医療問題研究会では、ビハーラ講座開設に向けて、その内容について検討を重ねる過程において、実際に終末期医療や高齢者福祉に取り組んでいる教育施設、研究機関、医療施設等を見学研修し、実態を把握することによって、講座の内容、カリキュラムの内容を検討する資料とすることを目的として訪問研修を行なった。

   A 訪問施設及び日程
 平成7年12月4日(月)〜5日(火)
  12月4日 午前「法音寺学園『中央総合福祉専門学校』」(名古屋市鶴舞)
       午後「老人保健施設『アウン』」(一宮市浅井町)
  12月5日 午前「法音寺学園『日本福祉大学』」(知多郡美浜町)

   B 参加者
 日蓮宗医療問題研究会メンバー
  奥田正叡、蟹江一肇、古河良晧、柴田寛彦、山口裕光、渡部公容
 早坂鳳城主任、竹岡智大所員

   C 研修レポート
    1、法音寺学園『中央総合福祉専門学校』
 法音寺学園は、本宗の法音寺の鈴木宗岳師により社会福祉専門の短期大学として1953年に創立され、現在日本福祉大学(大学院、女子短期大学部、付属高等学校)、中央総合福祉専門学校により構成された、国内では有数の古い伝統ある福祉専門の学校群である。
 私たちはまず名古屋市鶴舞の中央総合福祉専門学校を訪れ、山際耕兄教授、及び長岩嘉文企画事業室課長補佐から説明を受け、授業風景を見学した。

山際耕兄教授:中央総合福祉専門学校は、1987年に国家資格としての介護福祉士と社会福祉士とが制定されると同時に開学され、介護福祉士科と社会福祉士科とがある。いずれも国家資格と関連しているため、カリキュラムに関する厚生省の基準はかなり厳しい。各科100名定員に対して110名程度の入学生を受け入れるが、中退はほとんどない。女性80%男性20%の男女比である。卒業生の進路は、80%が老人福祉関係、10%が生涯福祉関係に就職し、5%は福祉大学に進学、残り5%が自営その他となっている。汗を流し、身体を動かして奉仕し、「チャンス アンド チャレンジ」をモットーとしている。阪神大震災に際しては、ボランティア希望者が多数いたが、60名にしぼって学校からの派遣としてボランティア活動を行なった。異なる年代の人たちとつきあうことができる「異種の哲学」の大切さを教えている。福祉の現場は、新3K(感謝、感激、感動)である。
 カリキュラムは、国家試験受験に際して必要な科目でほとんどが占められている。国家試験合格率は、全国平均約20%程度に対して、当校では75%の合格率である。

長岩嘉文企画事業室課長補佐:福祉の問題の最近の動きには、次の四点の背景がある。@平成5年以降、各地方自治体で福祉計画を作成し、独自の福祉行政を展開するようになったこと、A「福祉カルテ」を作って、どこにどのようなニーズを持った人がどれだけいるのかを常に把握する、それらの情報をデータベース化して管理する、種々のシステムを有効に活用するためのマネジメントが重要になってきているなど、「情報化」に格段の進歩が見られること、B医療、心理などの隣接領域との緊密な連携がますます重要になってきていること、C経済的な負担の問題の解決のため、介護保険を制度化したいという国の意向があること、などである。
 家庭介護の意向が強いが、今後はそうは行かない。従来の「施設」の考えが変わってきており、快適な居住空間の提供が求められてくる。寝たきりや痴呆になったときに、本人がどう生きるか、周囲がどう支えていくのかといった、心理面での研究が足りない。人間的な交流をどう作っていくのかが大きな課題である。ホスピスでの看護の役割は、先端医学の看護とはおのずから異なるはずであり、医療と保健と福祉の連携が必要である。医療でフォローすべきところと、福祉でフォローすべきところをどのようにマッチングさせるかが難しい。現状ではどうしても医療志向が強いが、どのようにバランスをとるかが問題である。最近は、「自立支援」がキーワードになってきている。

質疑応答の中から
 ○天理教では、厚生省から直接の許可を得てホームヘルパー養成事業を行なっている。
 ○高齢者を対象とした医療や福祉関係の講座や講演会が大はやりであるが、高齢者には、すぐ役立つ知識を得たいという実学志向が強い。これは高齢者自身が、心のよりどころをどこに置いたらよいのかわからず、迷っている、その裏返しとしてすぐに役立つような知識に飛びついているのではないだろうか。また、心の支えを持っている人でも、施設内でそれを理解し支える環境がない。そこにこそ宗教者の役割があるのではないか。
 ○宗教者が、病院や施設で役割をになっていくということも大切だが、もっと在宅に目を向けるべきではないか。ピラミッド構造の医療の現場にはなかなか入り込めない。しかし、在宅介護に重点を置く方向性を考えると、また、福祉と宗教者の連携という観点から考えても、在宅への宗教者の支援が求められていると考えるべきであろう。
 ○高齢者問題は、実は女性問題でもある。介護する人、介護される人、ともに女性が多い。女性にやさしい福祉を。
 ○これからは、高齢者が共同で生活するグループホームが必要とされてくる。お寺でもそのような施設、小規模な「宅老所」を考えてはどうか。

    2、老人保健施設『アウン』
 老人保健施設『アウン』は、医療法人大雄会に所属する施設である。医療法人大雄会は、病院(総合大雄会病院、大雄会第一病院)、看護専門学校、医科学研究所、老人保健施設「アウン」、在宅介護支援センター「アウン」、訪問看護ステーション「アウン」等の施設で構成される、私立の医療法人としては有数の規模と内容を誇っている。
 私たちは、老人保健施設『アウン』を訪問し、理事長伊藤伸一医師による施設運営理念に関する講話、林妙和施設長補佐による老人保健施設「アウン」の内容説明、及び同施設内にある在宅介護支援センター、訪問看護ステーションの各担当者からの説明を受けた後、施設を見学した。

理事長伊藤伸一医師講話:老人保健施設は、高齢者の入院治療はいかにあるべきかという問題を検討する中から生れてきた。日本の国家予算70兆円に対して医療費は24兆円であり、大きな規模のお金がかかっている。しかも今後高齢化社会が更に進展していくと、肥大化した医療費によって国の経済が破綻するのではないかという(医療費亡国論)不安が生じる。高齢者の場合、病気が治っても生産活動に復帰できるわけではない、機能低下はあっても必ずしも病気とは言えない場合がある、そのような特殊性を持った高齢者の医療に多くの経費を支出することが問題視されるようになった。そこで、高齢者を対象とした、病院と在宅の中間に老人保健施設が設置され、国から1人1か月35万円の補助で医療、介護すべてをまかなうシステムが作られたのである。
 これからの医療はどうあるべきであろうか。いかに、効率的に程よい医療を、国として提供できるかがこれからの課題である。戦後いかにして国民の健康を維持するかの国策として、主として医療の量の増大に力が注がれた。そのために、事業としての医療がもうかるように経済誘導されてきた。その結果として日本の医療制度は世界に冠たるものとして成功を収めてきた。ところが、現状を見ると、アメリカでは人口2億4千万に対してベッド数が90万であるのに対比して、日本では人口1億2千万に対するベッド数 160万であり、これはいかにも供給過剰で、社会的入院が多いことを示唆している。65歳以上6か月以上入院しているベッド数が30万を越えると推定され、この分は必ずしも病院での入院が必要ではないものと考えられる。過剰な検査、過剰な薬に対する反省も出てきている。こうした過剰な量の規制が行なわれれば、今後は病院の倒産、閉鎖も珍しくない時代が来る。そして、老人保健施設、ナーシングホーム等の需要が高まって来るであろうが、しかし現状では、そうした施設で医療や介護の質を高めようとすれば経営に負担になるという矛盾も含んでいる。
 これまでは、医療の量の問題が主として論議されてきたが、これからは医療の質が問われる時代が来るであろう。質の中身には、1、[ストラクチャー]ハードの面で設備が整っているか、2、[プロセス]設備をどのように有効に活用しているか、3、[アウトカム]結果としてどのような成果をもたらしているか、等が含まれるが、現在の日本の医療システムの中にはこのような質を評価する機能がない。アメリカではチェック・マニュアルがあって常に医療の質がチェックされるシステムになっている。この点が日本の医療の今後の課題である。

林妙和施設長補佐:資料に基づいて、「アウン」の現状を詳細に説明を受ける。在宅介護支援センター、訪問看護ステーションについても、各担当者より説明を受ける。
    3、法音寺学園『日本福祉大学』
 日本福祉大学は、前述学校法人法音寺学園の中心にあり、日本の福祉高等教育の草分け的存在であり、創立40年を超える。社会福祉学部、経済学部、情報社会科学部の3学部を有するが、今回の研修は社会福祉学部の内容に主眼を置いた。副学長である宮田和明教授の「少子・高齢社会とこれからの社会福祉」と題する講義を受け、意見交換の後、キャンパスを視察した。

宮田和明教授講義:講義後の質疑応答より
 ○高齢者福祉を考える視点として、@元気な高齢者、いわゆる「元気老人」にどのように対応するか、A心身の衰えに対してどのように対応するか、B人生の終末期において、どのような救済がありうるのか、この3点について、それぞれに対応を考えるべきである。
*福祉予算の負担の問題は、アメリカ型の個人主義的な方向を考えるか、お互いに負担しあいながら相互扶助の方向を考えるかであるが、いずれ今後の負担増はやむをえないであろう。
 ○施設は、プライバシーを保護した、それまでの生活と連続した生活が可能なもの、という視点から考えるべきであろう。ただ、必ずしも個室化をのぞんでいる人ばかりではない日本人の特性も考慮する必要がある。

   D まとめ
 今回の研修の主目的は、ビハーラ講座を開設するに当り、どのような内容にするべきか、受講者にどのような情報を提供するべきかを探ることにあった。そのためには、医療や福祉の現場において、医療や福祉のサービスを受ける人たち、サービスを提供している人たちが、どのような理念に基づいて活動し、現実に現場でどのような思いを抱いているのかを知ることが大切である。そして、教育の場でのカリキュラムには、そうした現状を踏まえて、将来に向かってどうしていけばよいのかという、未来像、将来像、理想像が根底にあるはずであり、それを探ることも極めて重要な作業であると考えられる。
 今回の私たちの研修は、老人保健施設1か所、教育施設2か所の、ごく限られた範囲ではあったが、上記の所期の目的とするところの多くの情報を得ることができた。ことに、各施設での意見交換の中で、私たち宗教者がこの分野においてどのような活動をすることが求められているのかについて、示唆に富む議論がなされたことは、極めて有意義であったと言える。
 今回の成果を基礎にして、ビハーラ講座の内容を深めるべく更に検討を加え、法華経者の社会的貢献のあるべき姿を求めていきたい。
以上

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