寺院調査プロジェクト「都市寺院調査」
「福岡市寺院調査」
大都市における本宗寺院の現状と
新たな開教布教の可能性をさぐる
――福岡市および周辺地域
(中間報告 アンケートの回答を中心に)――
はじめに
過疎地の寺院実態調査に引き続き、大都市での本宗寺院の現状と、新たな開教布教の可能性に関する調査を継続している。そこでは、
A.大都市における本宗寺院の現状を寺院の側がどう認識しているか。ことに檀信徒との関係、墓地、葬儀の現状と問題点を中心に。
B.大都市の一般的な宗教状況を調査、整理して新たな開教、布教の方策の資料とする。
この二点を軸にして、1回目に札幌市を調査、報告(「現代宗教研究」第29・30号所収)した。2回目として福岡市を対象地に選定、当該宗務所のご協力を得て、平成8年中に3回の現地調査を実施した。このことで札幌市との比較分析が可能となり、興味深い結果を得ることができた。本計画では、最低3カ所の調査地による比較分析を行ない、都市開教の方策についての指針を提示する予定である。
福岡市を調査対象にした理由は以下の通りである。
@九州地区を代表する政令指定都市であり、同じ政令指定都市の北九州より人口増加率が高い。
(1994年の対前年比 0.5%増加…『1995年民力朝日新聞社編』より)
A市内の本宗寺院24カ寺(教会、結社を含む)のうち17カ寺が東区、博多区、中央区に集中しており(平成6年度版寺院名簿より抽出)、大都市における本宗寺院の現状を調査する上で適地といえる。また、この寺院数は札幌市の23カ寺に近い数で、比較する上でも好都合である。
尚、今回の調査では地元教師の意見もあり、調査対象寺院を福岡都市圏に含まれる周辺地域の一部を加え38カ寺とした。
B修法師の全教師に占める割合が50%(平成元年デ−タ)と全国でも上位にランクされている。
C札幌市は歴史が新しく、開放性に富んだ個人主義的傾向の強い土地柄なのに対して、福岡市は一般に独自の文化が残り、地縁・血縁の強い土地柄といわれ、好対照をなしている。このことからも、福岡市の伝統的価値観の強い土地柄にあって、既成教団としての本宗の現状と新宗教の受け入れられ方の違いなど、札幌市との比較は興味深いものがある。
今回は定量的にとらえて数字処理による集計、分析が可能な「本宗寺院へのアンケート結果」を報告する。これは中間報告であって、行政・霊園・葬儀社・他教団等へのインタビューによる定性的な資料は現在まとめ作業中であり、また紙数の都合もあり次号の報告とする。
T 調査経過
1.予備調査 平成8年3月31日〜4月2日
福岡県宗務所、日蓮聖人銅像護持教会、福岡市役所、
西日本新聞社、民営霊園2カ所、葬儀社2カ所
2.第1次調査 平成8年5月13日〜14日
福岡市役所、地区参事寺院、公営霊園1カ所、仏所護念会、
立正佼成会、金光教、天理教、カトリック教団
3.第2次調査 平成8年6月10日〜12日
福岡市及び周辺の本宗寺院38カ寺訪問アンケート調査
4.アンケート内容
※次頁参照
U アンケート集計結果の分析とまとめ
※調査項目は多岐に亘るが、ここでは前回実施された札幌市の調査結果との比較分析で特徴的な項目についてのみ検討した。
※文中の全国値は、宗勢調査(平成4年度版)による。
※各項目の後ろの数字はアンケートの質問番号を示す。
1.住職の出身[T−(1)−c]
この項目は、住職が「在家出身」か「寺院出身」かを問うものであるが、福岡寺院においては「寺院出身」が76%という高い数値を示している。
札幌寺院の52%、全国値の61%と比較するならば、かなり高い数値である。また全国値の中で群を抜いて高い比率を示すのは、東京の75%であるが、それとほぼ同じ値がでている事は興味深い。
また「寺院出身」と答えた中で、更に「現在の寺院出身」か、「他の寺院出身」かを尋ねると、「他の寺院」の27%に対し、「現在の寺院」が49%という高い数値を示している。この点、札幌寺院では「他の寺院出身」が「現在の寺院出身」を上回っており、福岡と札幌では逆転していることがわかる。
このように福岡寺院では「在家出身者」よりも「寺院出身者」が多く、それも「現在の寺院出身者」が多いのが特徴といえる。
2. 住職の修行歴[T−(1)−e]
福岡の場合、加行所の比率が布教院、布教研修所、声明講習会等に比較して高い数値を示している。
札幌の場合も加行所の比率が高い傾向にあるのは同じであるが、札幌の場合には「通夜説教は当然すべきもの」という習慣のためか、次いで布教院の経験者の比率が高いのが特徴的である。
一方、福岡の場合には加行所以外の修行歴の比率は少ない。この結果から福岡の場合には、もっぱら修法布教に比重がかけられていることがわかる。
3.寺院後継者の有無[T−(2)−c]
福岡の場合、後継者は84%とかなり高い数値を示している。これは全国値、札幌寺院共に65%であることを考えるとその高さがよくわかる。これは、寺院の経済的安定性に起因することが大であると推測される。
4.寺院の主な収入源[T−(2)−d]
この質問は、上位3項目について「点数制」と「比率」の二面から検討した。すると札幌寺院は、月回向が中心であり、年中行事は祈祷、葬儀・法事と続くが、福岡寺院は葬儀・法事が中心であり、年中行事、月回向と続いている。
この結果はきわめて明瞭であり、「月回向中心の札幌寺院」に対し、「葬儀・法事中心の福岡寺院」ということができる。
5.檀信徒の主な年齢層[T−(3)−b−A]
札幌、福岡いずれも40代から70代に亙っているが、その違いをみると、札幌の場合は50代を中心に40代から60代の幅があるのに対し、福岡の場合には60代を中心に50代から70代の幅がある。
つまり、60代が中心の福岡に対し、50代が中心の札幌という結果であり、札幌の方が若干年齢層が若いといえる。
6.檀信徒の増減[T−(3)−c]
札幌の場合は、増加傾向、減少傾向共に高い数値を示しており、人口移動の激しさを物語っている。
しかし一方、福岡の場合には「変化なし」の数値が高い。これを具体的な数値で見ると、札幌が26%、全国値が30〜40%であるのに対し、福岡では42%である。 このことは、福岡の定住比率の高さと共に、寺檀関係の安定性を示すものといえよう。
7.月回向の有無[U−(1)−a]
札幌の場合、96%が「月回向有り」と答え、かなりの高比率を示しているが、福岡では63%という結果であった。
この項目についての全国値は無く、比較はできないが、これは各地域の諸事情、諸特性によって異なるものであるため、この数値の意味付けは難しい。
8.主な葬儀式場[V−(3)]
札幌の場合、その地域特性により貸斎場あるいは集会場が90%を占め、自宅で行うことは皆無であった。
一方、福岡では貸斎場が5割(47%)、次いで自宅が3割(34%)と続いており、各地域の特性あるいは時代の流れを見ることができる。
9.法号料の山納金の有無[W−(3)]
札幌の場合、65%が「有り」と答えているが、福岡では26%に過ぎず、むしろ福岡では58%が「無し」と答えている。
このように福岡と札幌では、まったく正反対の数値になっていることが特徴的であるといえよう。
10.寺院・檀家数増加の可能性[@−−]
札幌の場合、83%が増加の可能性をあげている(「可能性十分39%」、「やりようによっては44%」)が、福岡の場合、増加の可能性をあげているのは67%(「可能性十分24%」、「やりようによっては43%」)どまりであった。
また札幌では、「不可能」との回答は0%だが、福岡では14%となっている。
この項目においては、札幌と福岡でかなり異なった数値を示している。そこで更に福岡寺院を市内寺院と市外寺院に分類して比較検討した。
すると、市内寺院では増加の可能性をあげているのは54%だが、市外寺院においては86%と高い数値を示している。特に市内寺院では「不可能」との回答が2割もあるが、一方、市外寺院では「不可能」との回答は無く、むしろ「やりようによっては」という回答が8割と高い数値を示しており、今後のやり方しだいで期待が持てそうである。
この設問は、寺院の置かれた環境によって回答がはっきり異なっている。地域と数値から考えると、たとえば新興住宅地や新しい団地などでは十分な可能性をうかがうことができる。しかし、宗門あるいは地域での支援無くしては困難なことである。
まとめ
福岡市では住職の寺院出身者が多く、今後も後継者の不安が少ないなど、寺院住職の世襲化が定着していることがわかる。札幌市と比較して、その寺院運営は月回向が少なく、葬儀・法事による収入が中心を占め、法号料がないなど檀家の定着率が高い安定した状況にある。また、1カ寺当たりの檀家数も多い方で、自宅葬が主、檀信徒の平均年齢が高めといった傾向からも、地縁社会が色濃く残り、これを基盤に伝統的な寺檀関係が強く存続しているといえる。
こうした伝統的な寺檀関係の存続と安定した寺院運営、住職の世襲化といったパターンに現在のところ不安材料は見つからない。しかし一方では、大きく変化する時代への対応にスムーズかという疑念も残る。教線拡張のための新たな都市開教の実践は、一般に宗教浮動人口と呼ばれる宗教的に未組織な人達へのアプローチの問題といえる。この人達が我々既成教団をどう見、何を期待しているのか、客観的な分析と厳しい内部検証が必要ではないか。これに対する宗門寺院の意見は今回報告のオープンアンサーに示されている。また、行政・葬儀社・霊園・他教団などの声は次号に報告し全体のまとめをする予定である。














