日蓮宗 現代宗教研究所
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 巻頭言
     「いのち」とビハーラ活動
石川浩徳
(現代宗教研究所所長) 

  好評だったビハーラ講座
 本宗で、はじめてビハーラ講座を開催した。各方面から期待された講座である。
 医療の基礎知識を学びつつ、具体的な看護の演習を取り入れるなど、ケア活動の実際に即応できる内容を盛り込んだ。それにより、患者への接し方を修得し、人間の尊厳性とは何か。心の安心を与えるとはどういうことなのかを学び合った。初心の受講者にも容易に理解できるようにしたことが、好評であった。
 以前からターミナルケアについては、仏教者として積極的に取り組むべき、当然のことであるとの認識が高まっていた。殊に、法華経にもとづくビハーラ活動は、いかにあるべきかを論じ合い、社会教化活動の一環として、定着させることを含めて、当研究所の医療問題研究会で研究がすすめられてきたのである。
 ようやくここに、第一回の講座開催を実現できたことは、関係者の一人として本当に喜ばしく思う。
 日本で「ビハーラ」という言葉が、つかわれはじめたのはそれほど古くはない。西洋のホスピスに対して、仏教精神を基盤とする医療や福祉を考え、実践することを「ビハーラ」活動と称している。
 元来ビハーラ(viha-ra)とは、仏典によると休養とか安息を意味し、休息に適した閑静な場所を指している。やがてそこに建物ができ、集まった者が互いに心身の悩みをうち明けたりするようになっていき、転じて僧院と訳するようになった。
 日本ではビハーラという呼び名は新しいが、古くは聖徳太子の時代に、施薬院や悲田院があったことは、よく知られているところである。
  いのちについて
 医学の進歩が人間にとって大きな貢献をした事実を否定するものではないが、本当の幸福をもたらしたかどうかはまた別問題だ。激痛にさいなまれる患者の体中に、チューブを差し込み、電気ショックを与え、ほんのわずかな延命処置を施して、医療技術の進歩を誇ったところで、それが「生きる」意味において、どれほどの価値があるというのか、むずかしい問題ではある。
 「一日の命は三千界の財にも過ぎて候なり」という宗祖のお言葉は、生き生きとしている“いのち”のことである。 且て「ガンでも笑って死んでいけるんや」といって、末期の激痛に堪えて死に向かったある医学博士の生きざまに、最後まで生きるとはどういうことかを知らされた思いがする。
 日本は長寿国となりながらも、難病といわれるガン死亡率が相変わらず高い。経済的発展の代償として、環境破壊がすすみ、公害や食品添加物が、人体に悪影響を及ぼし、平成七年の医学白書でも、ガンによる死亡者は死因のトップにランクされている。
 医学や医療施設の進歩により、ガンからの生還者がふえたとはいえ、恐ろしい病気には違いない。
 「死は一定なり。」と、宗祖は教えられた。死は誰にも平等におとずれる。人は死に向かって生きている。納得のいく死を迎えるには、いかに納得のいく生き方ができたか、ということでもある。だがそんな心境にひたれる幸福者は少なかろう。大部分は死に直面したとき、あわてふためき、恐怖におののき、絶望の淵で苦しみ、死後の不安をいだくのが普通である。ましてやガンのように、徐々に病状が進行して、ある期間いのちをみつめつつ死と対峠しながら、日々を過ごすのはやり切れまい。
 今の日本が、世界一の長寿国となっているのは、医療機関や技術の急速な進歩により、単に死ねない状況に置かれている、といった方がよいのかも知れぬ。
 生きるとは何か、生きる重み、いのちの尊さ、ということを改めて考える必要がある。
  ビハーラ活動のこれから
 科学が進歩し医学が発展すればするほど、新しい難病が生まれる。国民の七割が不健康であり、慢性的な心身の病気に苦しんでいるという。ますますビハーラ活動の分野が広がるであろう。これからの新しい布教教化の重要な役割を担うことになるにちがいない。
 仏教界が、一般社会から遊離してはいないかと、各方面から指摘されている。教理がいかに深奥であっても、そのすばらしい教えが生きて役立たなければ意味がない。
 仏教のビハーラ活動の根本精神は、「願以此功徳 普及於一切 我等与衆生 皆倶成仏道」(法華経化城喩品)である。
 このみ仏の悲願を受けつぎ、共に菩提に至る菩薩行の具体的実践の一つが、ビハーラ活動である。
 言葉や建前論ではなく、患者と共に苦しみ、患者と共に喜べる、ターミナルケアが望まれる次第である。

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