日蓮宗医療問題研究会
ビハーラ講座に関する
アンケート調査報告
1.はじめに
日蓮宗医療問題研究会では、平成2年の第23回中央教化研究会議において発足して以来、現代の生命倫理、医療と宗教の接点に関する諸問題について研究、討議を重ねてきた。
その成果を踏まえて平成6年、第27回中央教化研究会議において、「現代社会にあって、がんの告知の可否や告知後の支援の問題、高齢化社会における高齢者福祉の問題、痴呆老人や寝たきり老人の介護の問題等、医療と宗教の接点に横たわる多くの問題、事柄に対して、日蓮宗教師としての積極的発言と実践的な関わりが求められている」ことを指摘し、「こうした現状に鑑み、高齢者への教化活動、がん告知患者への支援活動、ボランティア活動、お見舞い活動、ビハーラ活動等に参加を志す教師に対して、宗門として、これらの活動を行なうに際して必要な基本的な知識、情報、具体的な方法等を伝える」ための「ビハーラ講座(仮称)」の開設を提言した。
教化研究会議における討議の結果を踏まえ、ビハーラ講座開設に向けて具体的な内容の検討に着手し、研究、調査、訪問研修等を深めつつあるが、その一環として、宗門教師がこの問題にどのような関心と興味を抱いているのかを探る意味で、背景基礎調査としてのアンケート調査を行なった。
2.アンケート内容(次頁参照)
ビハーラ講座に関するアンケート
日蓮宗医療問題研究会
この度日蓮宗医療問題研究会ではビハーラ講座の開設に向けて準備を進めています。つきましては本宗教師の皆さまのご意見やご要望を参考にさせていただきたいと思いますので、以下のアンケートにご協力下さいますよう、お願い申し上げます。
ビハーラとは、サンスクリット語で「身も心も安らかであること」を意味し、具体的には「僧院」あるいは「安住」を指す言葉です。
ビハーラ活動とは、病院や福祉施設などにおいて、老人や病人の苦しみや悩みの現場に関わることであり、具体的には、医師、看護婦、ヘルパー、ケースワーカー、僧侶、家族などが共に病む人に対する訪問、医療、相談、対話、介助、法話、奉仕などを行うことにより病む人の精神的苦痛を和らげる実践活動のことです。
質問(どちらかに〇をつけて下さい)
1 、あなたはこのようなビハーラ活動について知っていましたか?
{知っていた 知らなかった}
2 、あなたは僧侶がビハーラ活動を行うことが必要だと思いますか?
{必要 必要でない}
3 、あなた自身はビハーラ活動に積極的に参加したいと思いますか?
{思う 思わない}
4 、ビハーラ活動に関する講習会が日蓮宗で開催されれば、あなたは参加したいと思いますか?{参加したい 参加しない}
5 、講習会が開催される場合、どのような内容が適当だと思われますか?
.内容 イ.一般教養程度の知識の習得 ロ.専門知識の習得
.期間 イ.1、2泊程度 ロ.1週間程度 ハ.年2〜3回(1〜2泊程度)
6 、そのほか、宗教と医療についての宗門としての取り組みについてご意見、ご希望等がありましたらご自由にお書き下さい。
ご協力ありがとうございました。合掌
さしつかえなければご記入下さい。管区名( ) 年齢( 才)3.対象及び回答者数
@第10回家庭児童相談室連絡協議会(H7.6.26〜27 於、福井県芦原温泉)
対象者総数53名 回答者39名 回収率73.6%
回答者[全員男性 年齢39〜73(平均57.2)歳]
A第28回中央教化研究会議(H7.9.6〜7 於、東京ヒルトンホテル)
対象者総数183名 回答者82名 回収率44.8%
@A合計 回答者121名
4.集計結果(@の結果、Aの結果、及び合計結果を示す。%は合計結果のみ)
1 、あなたはこのようなビハーラ活動について知っていましたか?
知っていた @27A59 計86(71%)
知らなかった 12 23 35(29%)
2 、あなたは僧侶がビハーラ活動を行うことが必要だと思いますか?
必要 39 82 121(100%)
必要でない 0 0 0( 0%)
3 、あなた自身はビハーラ活動に積極的に参加したいと思いますか?
思う 36 70 106(88%)
思わない 2 0 2( 2%)
4 、ビハーラ活動に関する講習会が日蓮宗で開催されれば、あなたは参加したいと思いますか?
参加したい 38 75 113(93%)
参加しない 1 6 7( 6%)
5 、講習会が開催される場合、どのような内容が適当だと思われますか?
.内容 イ、一般教養程度の知識の習得 22 38 60(50%)
ロ、専門知識の習得 12 35 47(38%)
(両方) 3 2 5( 4%)
.期間 イ、1、2泊程度 23 29 52(51%)
ロ、1週間程度 1 2 3( 2%)
ハ、年2〜3回(1〜2泊程度)13 44 57(47%)
5、その他の意見(○は@での意見、◇はAでの意見を示す)
○私の自坊では、檀信徒への教化は午前中で終わる。そこで、午後から夜にかけて無理のない程度で頑張りたい。(兵庫県西部 67歳)
○末期癌の患者に対し、「心の安らぎ」を与える役割を、キリスト教の牧師のように僧侶もつとめなければならないと考えています。(尾張 65歳)
○人間が出産されてこの世に出現するとき、実に多くの人々の手助けを受ける。しかし、人生を終了しようとする瞬間、殆どの人は孤独のうちに死んでいく。「老死」とは、死そのものの恐怖であるよりは、その前の段階こそが”苦しみ”であるというのが実情であろうと思う。しかし、同時に、現代の消費社会は「死は科学の敗北である」とされ、かつ、死者は経済的にも無価値なものと設定されている。ますます「死のポルノグラフィー」化が進行している。その反面、「死」をテーマにした出版物(”オウム”にもその傾向は顕著)も大変盛んである。しかしこれは、自分の死を自分の力で克服しようという観念に他ならない。→「助死夫(婦)」ビハーラ僧の目指すところは、こんなところだと思います。(静岡中 42歳)
○ビハーラに関する要点をまとめたパンフが必要であると思う。(神奈川 39歳)
○家庭の中で生活する親子の老人について、高齢化社会に進んでいる現状をどのように考えていくか。しかも二人が病気で入院を勧めてもその気にならないのである。僧侶のカウンセリングはどのようにしたらよいのでしょうか?
(神奈川 57歳)
○全国の医療施設でビハーラ活動のできるところを、県か管区ごとにまとめて教えてほしい。(栃木 63歳)
○わが県では現在殆ど行われていない。家族と共にの話し合いは行われるが、病院へはなかなか難しい。どのような方法で入り込んでいけば効果的であろうか。初歩段階からの研修がほしい。尚、このような方面について、各地区・管区ごとの研修会が望ましい。老人や病人へのカウンセリングについて等々。
(長野 65歳)
○日蓮宗として病院が必要ではないか?(愛知名古屋 49歳)
○日蓮宗の檀信徒の中で医療に従事している人がたくさんいると思いますので、そういう方々の協力を得ることが大切かと思います。
ちなみに立正大学の経営学部のOBで「医療と福祉のネットワーク」が組織されています。卒業者で福祉関係、医療関係に携わっている人たちの組織です。
なお、埼玉ガンセンターで東洋医学でリハビリを担当している小川初先生(日本スポーツリハビリ医学会会長)は熱心な日蓮宗信徒です。ご紹介することはできます。(群馬 47歳)
○節度なき自由、物質文明にかたよる中で、他力本願、依頼心が強く、自分、人間としての生き方、使命、価値観等が崩れ、現世の祈り、後世の祈りについてもいろいろと問題が出ています。まず教師より便利思考、楽思考から抜けて、襟を正し汗をかく人間に戻り、宗教と医療の中でゆがんだ心、姿を是正することに早急に取り組まないと、いつまでたっても知識のわくで終わってしまう。
(千葉北 51歳)
○ビハーラという言葉は正直なところ初めて知りました。詳しい内容はわかりませんが、これからの私たちの立場、僧侶として全員がこの知識(病む人の精神的苦痛を和らげる実戦活動)の習得が大切だと思います。講習会は、できれば小ブロック(地域)で実施されることを望みます。(尾張 57歳)
○僧侶は特に因縁を重視するきらいがある。しかし現代社会はそればかりでは将来に不安を感じ、布教の面にマイナスになるのではないか。その意味において、我々は医学一般教養を習得して、それを踏まえて布教し、精神的苦痛を和らげてあげることが必要であると思う。(尾張 63歳)
◇あまり詳しいことはわかりませんが、宗教者が今、医療の方面にも必要とされているのが伝わる様々な本を読んでいますが、関心の高さが高いのに、どうして宗門的にもそのようなことを習得できる講座のようなものがないのか疑問に思っておりました。是非前向きに進めていって頂きたく思います。
◇宗門の財政的支援、予算化がどれだけ取れるのか?
◇本宗教師が医療の現場に出ていくこと。又、医療現場即布教の場であるという認識を改めることが大切(布教の場ではないことを認識する必要がある!)。ケアを受ける人に対し、教師が何をするのか、何をしてあげるのかではなく(押しつけとなってしまう)、クライアントが何を望むのか、何をして欲しいのかを聞いて、その思いを実現できる手助けをすることからビハーラ(安住)は始まると思う!
◇宗立の病院を都会に作り、宗門檀信徒、身寄りのない人たちの面倒を見たらいかがなものでしょうか。
◇現代医学は心不在の治療が中心となっております。しかし、ビハーラにより、心と身体の間にできた溝を埋めることができると思います。是非この講座を実現して下さい。なお長期間にわたっての講座は参加するのが困難ですので、1〜2泊程度のもので回数を重ねていくものがよいと思います。
宗教破綻に末期医療における心の癒しという程度のものに扱われているが、宗教行為、ことに修行が心と身体に与える全人的効果、癒しの働きがあることまで目を向けてもらいたい。
◇各市町村のメインの病院に、教箋、新聞等を配布できないものか。病気の檀信徒(入院中)がベッドで読めるような優しく易しい教箋等の作成と配布(教師向けではなく)。
◇患者の悩み、苦痛もさることながら、医療の現場では医師、看護婦が精神的よりどころを求めている。医師、看護婦、僧侶の連携が必要である。僧侶が対告者の話を聞いてやる、or聞かせてもらうだけでもその人の気持ちを和らげることができるという。
◇ビハーラ開設までに、専門的知識の習得を定期的に行ない、カウンセラー教師の養成を是非お願いしたいと思う。
◇病院等で、〈だめ〉とか〈わからん〉という返事をもらった方がお寺にこられることが多い。そうした方々の精神面でのケアが必要。まず対話をしなければならないが、そのためにはある程度の医学知識が必要ではないか?
◇市仏教会有志でビハーラの会を発足して8年になり、私も会員です。会長は浄土真宗の方で、院長、婦長さん等参加して十数回会合をもちましたが、今一つ僧侶と病院側の接点がかみあわず、ここ2年ばかり会合をもっていません。原因の1つは、認識の違いにあるように思えます。病院側は死の近づいた方にお話(勇気付けたり、あの世へいく恐怖心を取り除く)をして頂きたいというのに対し、お寺側は、月参りの時いつもしているし、宗派の違いがあるので難しいという。どう対処すればよいのかを勉強したい。
◇一般的に、福祉の面で宗教者は積極的に行動すべきであります。
◇宗立の総合病院、あるいは障害者施設、痴呆老人施設を設立すべきであります。そこでのボランティア活動は、信行道場の必修科目と思います。宗立でなくても、今すぐにでも信行道場の科目に入れて欲しい。真の修行は生きている他者との関わりの中でこそ成就する!
◇教学と一致したカウンセリングの要項を作成して欲しい。
◇最初から完成したものは無理としても、厚生省、医師会とコンセンサスをもって前進的に考えるときであると思う。老健センターの建設についても、時代の養成である。少子社会、高齢化社会についての展望のもとに実現を。
◇寺では生ものは扱わないなどといわれているが、生きている人間、特に病に苦しみ、死の恐怖におびえる人々にこそ、心の安心を与えられるべきである。法務で忙しい、等の理由はさておき、積極的に進めるべきであると思う。
◇活動状況の公開と、宗務所を通しての指導を希望します。
◇病人の宗教に対する考え方もあり、難しいと思います。カトリック系では適しているのでしょうが、実際仏教系ではそのような活動がなされているのか、教師に知らせてほしいと思います。
◇宗門としてもう少し資料等を作成して配布してほしい。
◇私共ももっと医学の知識を詳しく知る必要がある。普段のお寺への相談ごとを受ける折にも、病気の悩み等多々ある。自分自身が知識を得ることによって、幅広く話を聞いてあげられると思う。宗門でもビハーラをいうなら、講習会開催等積極的に取り組んでほしいと思う。
◇宗教と医療の関係は、特にターミナル・ケアの問題は、もっと深くつながっていなければならないと思う。単に日蓮宗としてではなく、通仏教的、宗教的な問題として取り上げ、宗教者としての相互の協力も必要になってくると思う。
◇人間は必ず死ななければならない。病人の心のケアと同時に、死に対して安心をもって迎えられるように、教えを通じて救済に関わっていくことが必要だと思います。生れるときは助産婦などが誕生のお手伝いをしている。死ぬときも助死婦(夫)というべき、心の協力が必要かと思います。一般的なビハーラと同時に、日蓮宗独自の対応マニュアル、与えるべき冊子などの作成が必要と思います。又、接するときの服装等についても、新しい形のものを考えていただけたらよいと思います。
◇法務多忙のため、知りたくても、参加したくても、私自身は入り込めない。私の回りの僧侶に研修させて参加させたい。
◇医師、看護婦の方々の、現場からの直接的話題を聞きたい。直接に死と接している医療スタッフの話が重要だと思う。
◇早急に取り組んでもらいたい。この活動(即ち、心身共に痛みをとること、極楽の思い)こそが娑婆即寂光と思います。宗教は実践第一主義だと思います。巷では苦しんでいる人、悩んでいる人が一杯です。僧侶の存在の必要性から考えても是非お願いします。このためのプロを作り上げるべきだと思います。
◇宗門より率先してそういった活動の受け皿を作ってほしい。
◇高齢化社会の中で、病む人と接する機会、又その家族などからの相談等が増す中、当然必要なことと思います。対処法など、アフターケアの面でのノウハウを勉強できればと思います。
6、まとめ
今回のアンケート調査結果で際立っているのは、回答者全員が「僧侶がビハーラ活動を行なうことが必要だ」と考えているという点である。そして、自分自身も積極的にそのような活動をしたいと考え、そのような活動を行なうための講習会を希望している教師が大変多いということである。そして、講習会が行なわれるとすれば、一般教養から更には専門的な事柄までも学びたい、年間複数回の講習を希望する人も少なからずいるという結果は、宗門としてこの分野における多くの教師の真摯なニーズに応えるべく早急に取り組む必要の大なることを示唆していると考えられる。
日蓮宗医療問題研究会では、この結果に示された多くの本宗教師の積極的な意欲に応えるべく、どのようなカリキュラム、どのような内容の講座にすべきか、更に検討を進め、具体化のプログラム作成を進めていきたい。
