日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
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巻頭言三十周年に思う
石川浩徳
(現代宗教研究所所長) 

  「現代宗教研究所」が創立三十周年を迎えた。設立は昭和三十九年(一九六四)だから、正確には平成六年(一九九四)ということになるが、戦後五十年の節目の平成七年暮に関係者多数の出席を得て、祝賀会を催した。
 顧みて、「現代宗教研究所」という名の機関が、他の伝統教団に先がけて本宗に誕生したのは、当時の宗門的社会的危機意識からであった。
 昭和三十年代の日蓮宗は、大戦の反省から「世界立正平和運動」を展開していたが、内には、本圀寺移転問題や立正大学経営上の問題等をかかえ、外には、邪教創価学会の攻勢が激しくなっていた。世間に目を転ずれば、「物で栄えて心で亡ぶ」などという言葉が示す如く、経済の高度成長下のひずみの中で、世の中の激変に人々は不安を増長させていった。
 戦後、日本がようやく国際社会への復帰が成り、国際連合に加盟したのは昭和三十一年である。その後、経済は急成長を遂げ、国内は神武景気から岩戸景気へとはしゃぐほど、空前の好景気に浮かれ、国民総生産(GNP)は米ソに次ぐ世界第三位にのし上っていた(これは朝鮮動乱やインドシナ三国の内線を踏み台にした結果である)。使い捨てこそ美徳という間違った意識が横行し、物を大切にしないばかりか、人間の生命さえも軽視するようになり、「心の砂漠」などという造語が生れた。「公害」という環境破壊により、阿賀野川流域や神通川流域でのイタイイタイ病や、四日市市のぜんそく、水俣市の水俣病など、人間の生存にかかわる事態が、狭い日本の各所で起りはじめた。
 経済優先、物質万能を謳歌した陰で、人間性は喪失していった。
 政治面では、米ソの冷戦構造が続く中で、日本はアメリカに追随し、日米安保条約の再批准が強行され、戦争を永久に放棄したはずの日本の軍備は、知らぬ間にアジア第一を誇るものになっていた。
 米ソをはじめとする核保有国は、核実験に血道をあげて国の威信を誇示し合い、唯一被爆国日本の強い抗議をよそに、地球環境を悪化させていった。
 かかる状況こそまさに危機であるという意識が高まり、本宗では教師の時代認識が問われ教団としての対応が要請され、昭和三十八年の宗議会において、現代に即応できる機関の設立を望む声があがった。日蓮教学の現代的解明と時代を敏感に受けとめ得る生きた教団づくりこそ、社会や人類を指導していく上で何より大切である。教えがいかに優れていても、その教えを伝える僧侶や教団が、力を発揮できないのでは、宝の持ちぐされである。危機の今こそ、その「時」である、と声を発した憂宗の人たちが、この「現宗研」を生み出したのである。
 翌三十九年、第十四定宗において、金子弁浄総長は、「現下の異常時局だからこそ、現代人にアピールする法華経と正しい日蓮聖人の教えを、積極的に広める時である」として、「現代宗教研究所」の設置を宗会に提案した。宗議会はこの内局提案を可決し、現宗研は宗務総長の直属機関として呱々の声をあげた。
 現代という時代を分析把握し、諸宗教の実態を調査し、本宗教学の現代的解明と複雑怪奇な時代社会に対応し得る機関として、歩み出したのである。初代研究所所長には、久保田正文立正大学学監が就任した。それだけに研究所にかける期待は大であった。
 それから三十年、現宗研は、研究・調査機関として、歴代の所長を中心に研究員等関係者が努力し、その成果を順次積み重ね発展させて、今日へバトンタッチして来た。昭和四十二年には「所報」第一号が出版され、爾来研究内容や調査結果が一層明確化し、宗門教師はもちろん、多くの関係者の理解を深める資料として役立っている。現宗研は、研究のための研究をするところではない。伝道教化に直結する研究こそ大事である。これは創立当初からの一環した姿勢である。
 二十一世紀を目前にして、宗門は立教開宗七五〇年を迎えんとしている。今、現宗研が何よりも優先すべき課題は、「共生」の時代といわれる現代に宗祖が示され実行なされた$セ願行を、どう行動すべきか、法華経を現代に生かすとはいかなる事であるかを、具体的に明示することにあろう。
 宗祖は「我が門下は、夜は眠りを断ち、昼は暇をとどめて、これを案ぜよ、一生空しく過して万歳悔ることなかれ」と、仰せになられた。それは、教師も俗家も日蓮一門の自覚に立って、一丸となり、平成十四年(二〇〇二)に到来する立教開宗七五〇年を、信仰的使命感をもって、千載一偶の「時」とすることに他ならない。それは「南無妙法蓮華経」を広宣流布し、「共生」にどう役割を担える教団になれるかにある。門下の僧俗が教団ぐるみで、徹底して信を深め、行じ、説き、祈る。「現宗研」はそのための研究機関として持てる能力を十分発揮するであろう。
 創立三十年の記念式典は一つの通過点である。これからも常に時代を敏感に受けとめ、分析研究し、日蓮宗が真に生きた教団たるべく、「現宗研」は研究機関としての役割を果していかねばならぬ。
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