日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
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宗報 平成22年8月号 第269号 改訂 第101号

現宗研だより
  散骨と過疎地域寺院と(一)
日蓮宗現代宗教研究所主任 髙佐宣長 

 
  散骨所カズラ島
 
写真1
写真1
 カズラ島(写真1)は、島根県隠岐郡海士町の玄関口である菱浦港付近、すなわち諏訪湾の入り口に位置する無人島です。東西百米、南北二百米ほどの小さな島ですが、現在、この島全体が散骨所となっています。
 散骨とは、火葬後の遺骨を細かく砕き粉末状にした上で、海や山などに撒く葬送の方法です。
 いわゆる三離れのうちの墓離れを象徴する葬送法であり、平成三年(一九九一)に設立された「葬送の自由をすすめる会」の活動がマスコミで広く紹介されたりしていることによって、一定の社会的な認知を得ておりますので、小稿をお読み頂けるような方であれば、改めて御説明を要しないかとも思われます。
 我が国では、「墓地、埋葬等に関する法律」によって、火葬した後の焼骨を墳墓に埋蔵したり、納骨堂に収蔵したりする際の手続が定められていますが、これら以外の方法については特段の定めはありません。
 刑法一九〇条には、死体(遺骨)遺棄罪についての規定がありますが、散骨であっても、死者を弔う祭祀として、国民感情に配慮しつつ節度をもって行われる限りは、違法ではないというのが、非公式ではありますけれども、法務省の見解となっています。
 しかし、散骨の方法によっては問題が生じることがあります。例えば、平成六年(一九九四)には、東京都所有の水源林の区域に散骨が実施され、地域住民から苦情が出たことがありました。このため、地元市町村から東京都に対して散骨を容認しないことを求める要請書が提出されたりなどしています。
 漁場や養殖場、あるいは農地などの付近で散骨が実施されれば、風評被害が広がるなどの懸念もあり、平成十七年(二〇〇五)の北海道長沼町を始め、地方自治体の中には、散骨を規制する条例を制定するところが出始めており、それが定着しつつあるようです。
 そうした現況にあって、カズラ島の散骨は、自治体が認めている、否、協賛している、希有な例であると言えます。
 平成二十年(二〇〇八)八月のカズラ島散骨所の開所式は、海士町の山内道雄町長などの地元三町村の首長も出席して行われました。その模様を伝える、同年八月十七日の朝日新聞には、「無人島 散骨で町おこし」との見出しが記されています。

 尚、カズラ島は、現在、東京の戸田葬祭場のグループ企業の一つである、株式会社カズラの所有となっており、同社がこの散骨事業を行っています。
 
  現宗研研究員現地研修会
 
 さて、話はかわりますが、現宗研では、毎年、研究員の現地研修会を開催しています。
 筆者が主任を拝命して以降ですと、平成十九年度は宮崎県の旧大日蓮宗寺院を訪ね、平成二十年度は岡山県で、本宗復帰前の最上稲荷を始め、金光教、黒住教などの本部を訪問し、昨年は、「日蓮と法華の名宝」展開催に合わせて、京都の門下の本山や、阿含宗の総本殿を見学して来たりして参りました。
 今年は、五月十日から十二日の日程で、このカズラ島の見学ならびに、隠岐諸島に位置する本宗寺院を訪ね、現代葬送事情と過疎地寺院問題についての見識を深めることを目的と致しました。
 カズラ島では、五月と九月に現地見学会を実施しているので、それに合わせる形で、例年より少し早い時期での実施となりました。
 もともとは、戸田葬祭場と御親交のある小谷みどり先生(第一生命経済研究所主任研究員)にお声掛けを頂き、今回の現地研修となったのですが、小谷先生には、様々な御高配を賜り、御蔭様で大変有意義な研修になったかと思います。この場を借りまして、改めて御礼を申し上げます。
 (株)カズラの関係者の方々との面談を始め、山内町長のお話を伺う機会も作って頂けましたし、また、今回のカズラ島見学会に参加された、高名な葬送ジャーナリスト碑文谷創先生と旅程の一部を同行出来たことなども、参加者一同の得難い経験になりました。
 
  隠岐へ
 
 五月十日、松江駅前に集合し、七類港に向かいました。所用時間は約四十分。
 七類港で、海士町法久寺の代務住職である高梨恵兆師と合流、フェリーに乗り込み、隠岐を目指します。
 フェリーの出航時刻は九時半、海士町菱浦港への到着は十二時四十分。三時間余り、船に乗り続けなければ、隠岐には着けません。
 後日参加者に提出して貰ったレポートにも、この「遠さ」について言及しているものが幾つかあり、散骨所としてのカズラ島にとってというより、過疎地寺院が存立する上での、大きな困難として認識されました。
 松江に御自坊安楽寺のある高梨師は、このようにしてでなければ、代務住職寺に行くことすら出来ないのですから、その御苦労たるや、想像に難くありません。
 高梨師とは、筆者はその時が初対面だったのですが、船内では、法久寺の資料を御提供頂いたりして、参加者一同いろいろと御教示を頂戴出来ました。
 と申し上げた舌の根も乾かぬうちに、なのでは御座いますが、正直に申し上げますと、船に慣れぬ筆者は、キャビン内に留まっていることが難しく、小雨が降ったりやんだりしているデッキに出て、風に当たっている時間が長かったのではありました……。
 
  対岸の慰霊所
 
 菱浦港にて、隠岐の島町常妙寺の矢田麗修師の出迎えを受け、一足先に着かれていた小谷・碑文谷両先生とも合流、(株)カズラの手配して下さったバスに乗り、先ずは慰霊所に向かいました。
 カズラ島に上陸するには、また菱浦港から船に乗らなければならないのですが、散骨所に足を踏み入れる前に、供養をしてからでなければならないであろうと考えたのです。
 カズラ島は、自然公園法により、大山隠岐国立公園の「第一種特別地域」に指定されている区域の中にあります。第一種特別地域というのは、一切の建築物、及び構築物は認められない場所であり、したがってカズラ島にも、常設の桟橋などを作ることは認められないのだそうです。
 そこで、対岸に慰霊所を設けて、平生の供養はそこから行い、年に二度、時期を定めて、散骨実施会ならびに現地見学会を開催し、その時だけ仮設の桟橋を設置して、カズラ島に上陸出来るようにしているとのことです。
写真2
写真2
 慰霊所から法味を言上した(写真2)のですが、慰霊所には、既にカズラ島に散骨された方と、生前予約をされている方のネームプレートが掲示されていました(写真3)。散骨された方が十三人、予約をされている方が二十九人おられました。
写真3
写真3
 この数については、参加したメンバーの多くが意外に少ないと受け止めたようです。
 九月の中央教研で問題提起をお願いしている、産経新聞社会部副編集長の赤堀正卓氏の言によれば、散骨ほどマスコミが取り上げているのに一般に浸透して行かない事例も珍しいとのことですが、カズラ島もその例外ではないようです。
写真4
写真4
 もう一つ、この慰霊所について申し上げる中で、触れておいた方がよいかと思われるのは、この慰善所が設けられている場所に、隠岐牛が放牧されていたことです(写真4)。
 隠岐牛について詳述するのは、小稿の目的から外れますか、山内海士町長の町興し政策の一環で、ブランド牛化が図られている牛であり、相当の成果を上げているとのことです。
 
  いよいよカズラ島へ
 
写真5
写真5
 供養をすませた我々は、菱浦港へ戻り、チャーターされた漁船に乗って、カズラ島を目指しました(写真5)。
 小さな船ですので、一度に全員は乗り切れませんから、二班に分かれて乗船し、ピストン輸送して頂くこととなりました。
写真6
写真6
 菱浦港からカズラ島への所用時間は約十五分(筆者のぼんやりした記憶だと、もう少し近かったような気もするのですが、或る研究員師のレポートにそうありますので、従っておきます。上述の通り、常設の桟橋はありませんから、仮設の浮き桟橋から上陸します(写真6)。
写真7
写真7
 島全体が小山のようになっていますので、かなり傾斜のある階段を上り(写真7)、実際に散骨がなされている頂上に向かいました。
 簀の子のような通路を進むと、三十坪ほどのスペースが枠取りされており、更にそこが十区画にロープで仕切られていました。ここに骸骨するのです。
 毎年、そのうちの一区画を用いて骸骨し、十年間は同じところに撒かないようにするとのこと。十年経てば、「自然に還る」であろう、ということのようです。
写真8
写真8
 私たちが訪れた際には、その前日に散骨された跡が見て取れました(写真8)。
 お世話になった関係者の方々には申し訳ないのですけれども、カズラ島の散骨現場を見学してみて、事前に抱いていた「国立公園内の風光明媚な自然の孤島」での散骨という「綺麗なイメージ」が違っていたと感じた参加者が多かったことは、報告しておくべきでありましょう。
 教義面や信仰面でのことを考えた時、現宗研の参加メンバーが、散骨に良好なイメージを持って見学に臨んだとも考えにくいのですが、そうしたことを別としても、百聞は一見に如かずがマイナス方向に働いた参加者が多かったようです。
 カズラ島での散骨には、「施主散骨」と「委託散骨」と称している二つの散骨方法が設定されています。
 遺族関係者が直接現地に赴き、散骨するのが「施主散骨」、遺族が(株)カズラの方に遺骨を預け、(株)カズラの担当者が散骨するのが「委託散骨」ですが、委託散骨の方が多く、しかもカズラ島を訪れたことの無い依頼者の方が多い、との説明を、さもあらんと聞いた参加者が多かったようでした。
 また、「委託散骨」の多さを、「無縁社会」との関連から考察するレポートも目立ちました。
               〔続〕
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