|
現宗研だより 過疎寺院活性化と朝日新聞と創価学会と(その一)
日蓮宗現代宗教研究所主任 髙佐宣長
山静教研にて
何やら珍妙な三題噺になるやも知れませんが、暫くの間お付き合いのほどをお願い申し上げます。
些か旧聞に属しますが、平成二十年二月二十日、身延山大学を会場として、平成十九年度の山静教区教化研究会議が開催されました。
テーマは「寺院と社会のつながりと交わり──下種結縁の在り方について」。
新潟県妙光寺の御住職──と言うよりは、あの「安穏廟」の、と申し上げた方が通りが良いかもしれませんね──小川英爾師(因みに、師は、かつて現宗研の嘱託をお務め頂いていました)による基調講演(事例発表)の後、三つの分科会に分かれ、第1分科会は「社会密着型」として、小川師が引き続きコメンテーターをお務めになり、第2分科会、第3分科会では、それぞれ「福祉・救済型」、「イベント型」として、東京都大田区妙徳教会担任で、これも恐らく御存じの方の多いことと思いますが、「妙徳ビハーラ」を創設され、ビハーラ活動に積極的に取り組まれている今田忠彰師と、毎年講談会や講演会を開催し、地域社会に溶け込んで御題目信仰を広めておられる甲府市北組七ヵ寺寺院代表の方とが、コメンテーターとなって、熱心な討議が行われました。
小川師や今田師のお話も勿論大変興味深いものでしたので、ここで御紹介したいところですし、「振り返りシート」というユニークなアンケート調査を試みられたりしておりましたので、そうしたことについても触れたいのですが、山静教区により丁寧な報告書が作成されておりますので、詳細はそれを御参照下さい。
御関心のある方は、山梨一部宗務所が担当年番でしたので、そちらか、もしくは、山梨県教研センターにお問い合わせ頂ければ宜しいのではないかと思います(などと、何の許可も頂かずに書いておりますが……)。
そうそう、話は逸れますが、山梨県教研センターで現在、所長をお務めの上田本幸師は、筆者が立正大学大学院で学んでいる際、同時期に在学されていた方です。
現宗研主任として、各地の教研会議やその運営委員会に伺った折、こうした旧知の方々の御活躍を眼にするのは、刺激になり励みになりますし、旧交をあたためることも出来、誠に有り難いことと感じております。と、余分なことを書きました。
閑話休題。教研会議終了後、その上田師から、「朝日新聞の記者さんが取材に来ているから紹介する」とお声掛けを頂きました。
なんでも、過疎地寺院の取り組みについて取材されているとのことで、上田師は「過疎地寺院問題なら現宗研がやってきてるから、って言ったんだ」と、お引き合わせ下さったのでした。
頂戴した名剌には、「朝日新聞東京本社 生活グループ 記者 M」とありました。因みに、女性でした。
過疎地寺院調査
現宗研の過疎地寺院問題に対する取り組みについては、御紹介するまでもないかもしれませんが、せっかくですから、この機会に少々PRさせて頂きます。
と言っても、先ずは奥ゆかしく(?)報道機関の記事を引用しましょう。
「文化時報」の平成十九年四月十八日号の「タイム&アングル」欄には、「過疎地寺院対策に最後の挑戦?」の見出しのもと、次のようにあります。
| |
日蓮宗では、過疎地寺院対策にどこよりも早く取り組み、20年前には本格的な調査を行い冊子にまとめた。その内容は各宗に“衝撃”を与えたが、その後の対策は後手に回り、ここに来て『限界集落』が話題に上るなど、本格的な対策が必要との声が日増しに高まっている。
平成元年に日蓮宗現代宗教研究所から『過疎地寺院調査報告書』が刊行、直前にはNHKで特集が放映されたこともあり、大きな反響を呼んだ。……
昨年の宗会で、ようやく『過疎地域寺院活性化検討委員会』が設立された日蓮宗。……機構改革で委員会の統廃合が進められた同宗にあって、新たに設立される正式委員会の意味は大きい。
|
以下、委員会の抱える課題などについても触れておりますが、それは省略いたしましょう。
文中で紹介されている『過疎地寺院調査報告書』というのは、現宗研が編集し、宗務院より平成元年十二月八日付で発行された『過疎地寺院調査報告書 ここまで来ている過疎地寺院 あなたは知っていますか?』のことで、B5判四十頁余りの冊子です。
石川教張所長、赤堀正明主任時代のもので、編集スタッフの中に、先の小川英爾師の名があったり、巻末に収録されている二つの会議録のうち、「過疎地寺院青年僧侶による懇談会」の出席者には、小川師や、現在、過疎地域寺院活性化検討委員会の委員として当該問題に精力的に取り組んでおられる長崎県報国寺の立石隆教師などが名を連ね、「過疎地寺院問題を抱える宗会議員と宗務所長の会議」中には、今はなき故岩間湛正前宗務総長のお名前も見られます。
『あなたは知っていますか?』の「あとがき」に
| |
この報告は、現代宗教研究所が継続して実施してきた「過疎地寺院調査報告」を、宗門全体に問題として提起したいために、読み易い形態で編集したものである。その多くは『現代宗教研究』誌上に既報されているが、まとまった形として上梓する意味は充分にあると考える。
|
とあることからも判りますように、この冊子の内容のほとんどは、それまでの現宗研の研究調査を再編集したものでした。
そもそも、本宗に於いて、過疎問題が取り上げられたのは、昭和三十八年に遡るようです。
この年の第十三宗会に於いて小原正泰議員が農村寺院対策について質問したのが嚆矢である、と『あなたは知っていますか?』の「まとめ」に記されています。
翌三十九年に現宗研が設置されるのですが、「所報」の第一号には、過疎地寺院問題をも含む「日蓮宗寺院実態調査」を調査テーマとして掲げ、昭和五十八年の山梨県早川町を皮切りに実地調査を開始、昭和五十九年、六十年に刊行された『現代宗教研究』の第十八号、十九号では「寺院実態調査報告」を特集し、『あなたは知っていますか?』に収録した過疎地寺院調査報告の多くを掲載致しました。現宗研が如何に早い時期からこの問題に取り組んでいたかを知って頂けるかと思います。
因みに、実地調査を開始した当時の所長は宮崎英修先生、主任は惜しくも昨年急逝された久住謙是師で、往時を知る方によれば、この問題に着目し、真っ先に取り組まれたのは久住師であったそうです。
『あなたは知っていますか?』を刊行後も、現宗研では、過疎地寺院調査を継続し、随時「現代宗教研究」誌上に報告して来ておりますが、この件を書いておりますとキリがありませんので、そろそろ朝日新聞の女性記者に話を戻しましょう。
朝日新聞の取材
山静教研では、Mさんとは名刺交換をしたのみで、後日、現宗研に取材にいらっしゃる、ということになりました。
ここから先は、正確に日付を申し上げられないことが増えるのですが、三月のお彼岸前くらいの頃だったでしょうか、Mさんが現宗研を訪ねていらっしゃいました。
Mさんの御質問事項についてお答えし、またそれへの質問……というような形で、二時間余りもお話ししたでしょうか。内容は必ずしも過疎地寺院問題に限定されたものではなく、例えば、そもそも檀家制度とは、であるとか、代務寺院とは如何なるものであるか等々、過疎地寺院問題を考える上での前提となる、基礎的、一般的な、寺院、僧侶に関する事柄が主であったように記憶しております。
過疎地寺院問題については、『あなたは知っていますか?』の他、それ以後の現宗研の所報に掲載された過疎地寺院問題をテーマとした研究論文や調査報告を差し上げ、それらを参照下さるように申し上げました。
また、前述の通り、宗門には、現在「過疎地域寺院活性化検討委員会」が設置されており、そちらの所管は伝道部となりますので、伝道部にもお運び頂き、説明を聞いて頂きました。
その後、一、二度、電話での遣り取りがあったように思います。そして、五月三十日に、もう一度取材においでになりたいという御依頼があり、お待ちしていたのですが、なかなかおいでになりません。かと言って中止との連絡があるわけでもなく、どうしたものかと思案しておりましたところ、宗務院の終礼の時刻をかなり過ぎたころ、Mさんから御電話が入りました。
それから約二時間ほどでしたでしょうか、電話での取材を受けました。途中、話が委員会関係のことになったりも致しましたので、伝道部の方にも現宗研に来て貰い、午後七時過ぎまで続きました。
あとから伺った話では、その翌日の土曜日、田澤所長のところに電話が掛かってきて、やはり二時間ほど取材を受けられたとのことでした。
「寺離れ 地方も都会も」
 | 記事 |
そして、六月二日朝刊に、問題の記事は掲載されました
筆者が最初に読んだのは、無論、東京阪のものです。下段に、当該記事をそのまま転載します(記事  )。
「寺離れ 地方も都会も」と大見出しのついたその記事は、「お寺が危ない。……『葬式仏教』という皮肉交じりの言葉すら成り立だなくなる危機感のなか、伝統仏教の生き残りをかけた手探りが各地で始まっている。」と記し、こちらの気の所為か、純粋に客観公正であるよりも、微かに揶揄嘲弄する気分を漂わせているように感ぜられたりも致しますが、中頃で身延町実教寺の取り組みを紹介し、終わり近くに、現宗研での取材の成果を次のように記しています。
| |
山梨県身延町に総本山がある日蓮宗は06年に過疎地対策の専門委員会を発足させた。来年、寺独自の取り組みの事例集を作る。日蓮宗の調査(04年)によると、日蓮宗全寺院の45%が将来、住職不在で寺の機能を果たせない可能性があるという。
日蓮宗現代宗教研究所の田澤元泰所長は「檀家が減って経済基盤が弱まり住職が宗教活動をできなくなる。その結果檀家が減るという悪循環だ」と話す。
|
田潭所長への個人取材を含めれば、総計六時間を優に超える取材があって、これだけの記事かと、些か脱力したのでもありましたが、何しろ八百万を超える発行部数を誇る大新聞です。田澤所長の分析が、記事の締め括りに近いところで掲載されたことを以て諒とすべきか、そんなところが、筆者の最初の気分でした(所長は「この部分を使うとは思わなかった。こちらが話したことの、どこをどう使うかは、向こうの裁量権の範囲内だから、仕方がないけれども」と仰っていましたが)。
六月二日の朝刊に記事が掲載されますので、とMさんから伺っておりましたので、登院前に自坊で朝日新聞をめくり、当該記事を見つけ、現宗研の部分はどこか、と探し、右に引いた部分を読んで、という段階までが以上だったのですが、記事を読み進めた時には、感想は「こいつはやられた」に変わっていました。
田澤所長のコメントに続き、記事には次のようにあったのです。
| |
こうした伝統仏教の現状をいわゆる新宗教はどうみるのか。
代表的な存在で、公称827万世帯の会員を持つ創価学会の広報室は「個別の宗教の活動や取り組みに対するコメントは差し控える」としたうえで、「一般的に既成教団は戦後、地域共同体の崩壊や、都市部への人口流入などの変化への対応に遅れた面があったのではないか。私たちは、一対一の対話を通して励まし励まされる連帯感、民衆の共感を大切にしてきた」とする。
多くの団体が信者を増やしてきたが、最近は伸び悩んでいることを複数の新宗教関係者が認める。
「人々が宗教に縁遠くなっている点では、置かれた状況は伝統仏教と近い」(ある新宗教幹部)との見方もある。
|
創価学会が如何にマスコミに対し影響力を強めているか。聖教新聞などをわざわざ他の新聞社で印刷し、関連出版社の広告を毎日のように掲載して、批判を封じ込んでいる、というような話は、いつぞやこの「現宗研だより」でも書きました信行道場での講話などでもお話し申し上げていることなのですが、自分たちが取材を受けて書かれた記事に、こうした形で創価学会のマスコミ支配の現実をまざまざと見せつけられるとは、思いもしませんでした。
あの朝日新聞までが、ここまで創価学会に気を遣うようになっちゃってるんだなぁ、と少々ガッカリしたのですが、話はこれでは終わりませんでした。
六月二日の記事の別バージョン
六月四日、五日、九州教研が福岡でありました。
田澤所長がパネリストとして出席され、筆者は現宗研で通常勤務をしていたのですが、確か四日のことだったと思います、京都の本願寺の方から御電話を頂きました。
朝日新聞の記事を御覧頂ければお解りのように、浄土真宗本願寺派もこの件で取材を受けていたようなのですが、曰く、当該記事に創価学会のコメントが掲載されるとは思いもよらなかった、あれでは創価学会の宣伝記事である、本願寺では朝日新聞に正式に抗議を申し入れることとした、日蓮宗さんでは何もしないのか、と。
これは些か呑気でいすぎたのかもしれない、と、さすがの筆者も反省させられました。
そして、早速、九州の田澤所長に御連絡し、本願寺さんの件をお伝えしました。
所長は、九州でもあの記事は話題になっている、なるほど、改めて読み直してみると、相当に創価学会寄りな記事であると言わざるを得ない、戻ったら、内局会議でも報告して検討する、と仰っていました。そして、こう付け加えられました「でも、こんなにひどい記事だったかなぁ……」。
 | 記事 |
そして、所長がお持ち帰りになられたのが、次の頁に掲げるものでした(記事  )
所長が疑問に思われたのも宜なるかな、九州で御覧になったのは、東京阪とは違う記事だったのです。
一見、どこが違うのか、と思われるかもしれませんが、細部ではあちこちに相違がみられます。
そして何より、田澤所長のコメントに続く、新宗教関係者の談話部分が、最も違っていたのでした。今、煩を厭わず引用します。
| |
一方、都市部を中心に信者を増やしてきたのが、いわゆる新宗教だ。彼らはどうみるのか。
代表的な存在で、公称827万世帯の会員を持つ創価学会の広報室は「個別の宗教の活動や取り組みに対するコメントは差し控える」としたうえで、「一般的に既成教団は、戦後、地域共同体が崩壊し、都市部への人口流入が進むなどの状況変化への対応が遅れた面があったのではないか」と指摘する。
また、自らについては、「一対一の対話を通して励まし励まされる連帯感を生んできたから、民衆の共感を得たのだと思う。宗教には潜在的な期待は高い」としている。
|
どうでしょうか。新宗教と言いつつ、創価学会のみが取り上げられ、その自教団の肯定的PR言辞がそのまま掲載され、しかもそれが「宗教への期待」に直結するかのような印象を与える文脈になっていることなど、こちらの方が、いっそう創価学会寄りの文面であることは申し上げるまでもないかと思います。
元来、囲みで上田紀行東工大准教授のコメントが掲載されているわけですし、新宗教側の評言を載せる必要など全くないにもかかわらず、のものですので、朝日の編集方針に疑問を持たざるを得ないところです(その上田氏のコメントの見出しも、記事@では「不安の時代 心のケアを」と、伝統仏教への期待感を表すものであったのに対し、記事Aでは「『家』に基盤 時代と溝」と、伝統仏教に対し、批判的な色合いの濃いものとなっています)。
現宗研では、早速、研究所のメンバーに連絡を取り、住居地の朝日新聞を手に入れて下さるように依頼することにしました……。
〔続〕
| * |
今号にてお知らせしております通り、現宗研では、来年の一月二十八日に「法華経・日蓮聖人・日蓮教団論研究セミナー」を「創価学会・公明党の動向を考える」をテーマに開催いたします。公開講座と致しますので、多数の申し込みをお待ちしております。
|
|