日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
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宗報 平成18年6月号 第219号 改訂 第51号

 共 に 生 き る
日蓮宗現代宗教研究所主任 伊藤立教

  松本智津夫(オウム真理教元代表麻原彰晃)被告の控訴棄却決定
 
 オウム真理教元代表麻原彰晃こと松本智津夫被告の控訴棄却を、3月27日に東京高等裁判所が決定しました。
 オウム真理教は、昭和59(1984)年に松本被告が「オウム神仙の会」を設立し、3年後に「オウム真理教」と改称したことから始まります。改称の翌年に、東京都が宗教法人として認証しました。この時点で「オウム真理教被害者対策弁護団」が結成されており、結成者の坂本堤弁護士一家3人が殺害されました。この事件をはじめ、松本サリン事件、地下鉄サリン事件、VXガス事件など13事件で松本被告が逮捕され、東京地裁がオウム真理教解散命令を下したのが平成7(1995)年でした。翌年、松本被告の初公判が開かれ、平成16(2004)年に東京地裁で死刑判決が下りました。
 東京高裁は、松本被告に訴訟能力があり、弁護団の控訴趣意書提出の遅延を「やむを得ない事情」とは認められない、として控訴棄却を決定しました。
 オウム真理教事件は、宗教や信仰に対する不信感を増長させたと言われています。その正否は別として元信者が、「お寺は風景に過ぎず、若者の苦悩を聞いてくれる場所ではなかった」と入信の動機を語ったことは、仏教教団にとって重い言葉でした。
 オウム真理教は松本被告の欲望をかなえるための詐欺集団であり、個人崇拝と独裁が反社会的テロ組織として機能するようになったもので、信仰という崇高な精神、特に仏教とは無縁の似而非(エセ)宗教です。救済と称して人を殺すなど、法華経信仰からは考えられない論理をもてあそびました。
 しかし多くの若者が、これを宗教教団として受け止め、「出家」してホーリーネームを与えられ、機械や薬物を使用した「悟り」を体験し、「空中浮遊」する麻原教祖(松本被告)を尊師と呼んで絶対視した結果が、自己の意思を全くなくしか状態での絶対服従でした。その結果、殺人・毒ガス製造・武器隠匿・誘拐などに加担しました。教祖逮捕後、教団は事件に対する関与を認めて謝罪し、「アーレフ」と改称しました。公安調査庁によると現在、東京都世田谷区に本部を構え、17都道府県に28拠点をもち、国内約1650人、ロシア約300人の信者がいます。公安審査委員会は今年1月、団体規制法に基づく観察処分の2回目の更新を決定しています。
 あれほどの異様な大事件を起こしていながら、いまだに麻原教祖を実質的に崇拝する団体として活動しています。事件が反省の材料になっていないのではないか、と思えてなりません。事件の再発、宗教の悪用を防止するためにも、一人一人が「オウム真理教事件」を総括する必要があります。社会の疲弊、我が子の苦悩に向き合い、仏国土顕現のために、個人が、お寺が、日蓮宗が行動することこそ、日蓮聖人が求めた立正安国・世界平和といえましょう。
 
  憲法の内容を「知らない」
 
 朝日新聞5月3日付記事の朝日新聞社世論調査によると、憲法についてよく知っている4パーセント、少し知っている43パーセント、ほとんど知らない52パーセント、ということです。
 憲法の内容を知らない人が半数いる現状で、改憲も護憲もないでしょう。国の基本である憲法を理解させようという努力をしなかったのではないか、といわれても仕方がないでしょう。
 知らない、では済まされない問題です。
 かつて60年安保のとき、国会で岸信介総理大臣が、「安保反対のデモをしているが、後楽園球場をみてご覧なさい、大衆は巨人阪神戦に熱狂しているではないか」と言ったそうです。そういえば70年安保のときは、大阪万博が開かれました。野球観戦や万博見物で目を逸らさせ、日米安全保障条約という軍事同盟の問題点を先送りにしたことが、今日の在日米軍基地移転問題や、米軍司令部機能の日本移転、日米軍事機構の一体化の問題につながっている、という指摘もあります。
 憲法改変のための国民投票法案が、今国会で審議されるといわれています。知らない、では投票できません。それ以前に、憲法を変えるべきかどうかについて、自分自身で考えなくてはなりません。現行「日本国憲法」は、主権在民、国民一人一人が主体的に考えることを求めています。
 
  教育基本法も「変える」
 
 現行憲法と前後して制定された教育基本法は、憲法に劣らぬ崇高な理念に貫かれています。
 社会の現状が悪いのは教育が悪いからだ、というのが教育基本法改変の理由だそうです。社会が悪いのは、教育のせいなのでしょうか。政治は悪くないのでしょうか、その他は悪くないのでしょうか。
 憲法改変もそうですが、教育基本法の崇高な理念に近づけようとする努力をせず、現実に合わせて理念を下げるのは、いかがなものでしょうか。
 国民は昨年秋の選挙で、連立与党に衆議院の4分の3の議席を与えたのですから、与党がその気になれば、憲法も教育基本法も、多数決で変えることができます。
 
  「靖国」への不信
 
 今年頭、小泉純一郎総理大臣は、自身の靖国神社参拝を批判しているのは中国と韓国だけだ、といいましたが、アメリカも懸念を示しています。「靖国」問題で支障をきたしているアジア外交に、経済界からも懸念が出ています。
 利害の異なる国が円滑に交流できるように心配りをするのが外交ならば、相手の言い分を理解することが求められます。戦争は最後の手段、いえ、日本は憲法で戦争を放棄したのですから、徹底的に話し合い、理解し合い、一つ一つの問題を解決しなければならないのではないでしょうか。
 
  臓器移植と尊厳死と老人医療
 
 脳死を人の死とする臓器移植法案が施行されても、実際の臓器移植はとても少ないのだそうです。
 現在、子供の臓器移植法案が検討されていますが、本人の意思確認の問題もあり、論議を呼んでいます。
 延命治療を拒否するための尊厳死法案が、今国会で審議されるそうです。これについても、賛否両論があります。
 仏教教団の多くは、臓器移植法案について、脳死を人の死とすることに懸念を表明しました。小児臓器移植法案や尊厳死法案についても、いのちの領域に人間が入り込むことについての懸念がいわれています。
 病気の子供をかかえる親に、「あなたは親なのだから、ふたつある腎臓の一つを子供さんに移植してあげなさい」と、まわりが強制しかねない心配がありはしませんか。借金を返せないでいる人に、「腎臓売って金返せ」と、貸した人が強要しかねないとは思われませんか。
 延命治療は経済的にも介護的にも迷惑をかける、と自分の意志で延命装置のスイッチを切る決断ができる法的根拠としての尊厳死法案にも、同様の懸念があります。
 今国会で成立するとみられる医療制度改革法案で高齢者の負担が増すことになれば、70歳以上の老人は迷惑をかけないよう延命治療を返上してはどうか、ということになりはしませんか。
 終末期医療がいわれている今日、よく考えてみる必要があります。
 
  郵便集配局の再編     
 
 民営化直前の日本郵政公社が、郵便局の集配拠点である全国約4700の集配郵便局のうち、約1000局を無集配局とする再編案を出しました。
 昨年の郵政民営化論議のおり、十年間は現状を維持するといったはずです。過疎地のサービスが低下しないかが、昨秋の選挙の争点になっていました。
 都道府県が市町村合併の介添え役を果たす合併新法で、平成11年に3232あった市町村が、本年4月1日までに1820になりました。第二次合併が始まっていますが、現場は混乱しているそうです。これは行政の簡素化構想によるものだそうですが、大きくなった行政区域に十分な配慮のある施策ができるのでしょうか。
 先般、過疎地寺院調査で山口県を4日間歩きましたが、弱・小・貧の切り捨ての現場、二極化の実状を見た気がしました。美しい自然、自給自足、だけでは生きていけない現実がありました。
 
  『ダ・ヴィンチ・コード』
 
 ダン・ブラウン原作のベストセラー小説『ダ・ヴィンチ・コード』が、ロン・ハワード監督のアメリカ映画になりました。
 結婚していたイエス・キリストの末裔をめぐる攻防がテーマとなっているため、ローマカトリック教会からの非難がおこっているそうですが、ローマ法皇はこれに触れていません。
 映画の最後に、この作品はフィクションで実在の団体個人とは無関係、と断っていますが、キリストの子が女子であったとして、二百万人が殺されたという魔女裁判(それは自由な考えをもっか女性の弾圧)にからめ、ローマカトリック教会批判のひとつに挙げています。
 
  だからこそ「共に生きる」
 
 今年9月6日(水)7日(木)の現宗研主催第39回中央教化研究会議は、「日蓮宗の教化学を考える−多様社会を共に生きる」をテーマに開催します。文化・宗教・民俗などの多様化が進む日本で、違いを認めつつ共生することが求められています。
 生きにくい末法現代で、我らと衆生と皆ともに仏道を成ずる智慧を出し合いましょう。
 別掲告示・開催要綱(本誌13頁)中、時代小説家山本一力氏演題が「仮題」となっていますが、この通り決定しました。参加者には、事前に会議資料と文春文庫『あかね空』をお送りします。当日は講師のご厚意により、著書サイン会が行われます。
 なお、同氏原作のNHKテレビ木曜時代劇「次郎長 背負い富士」が6月1日から連続十回放送中です。
 伝承学研究の一環として5月16日〜18日に、徳島県で阿波忌部調査をしました。
 古代民族阿波忌部は、阿波から出雲・紀州・伊勢・伊豆・安房に進出しました。清澄寺に、阿波忌部祖先神天富命をまつる天富神社があります。お酉さまは、阿波忌部祖先神天日鷲命のことです。
 これに関する研究書が、4月15日発行の鳴門工業高校林博章教諭著『日本各地を開拓した阿波忌部の足跡安房国編』です。本書のお問い合わせは、吉野川市鴨島公民館(0883−24−5111)へ。
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