日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
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宗報 平成18年2月号 第215号 改訂 第47号

「癒し」よりも「和み」を
日蓮宗現代宗教研究所主任 伊藤立教 

  江戸しぐさ
 池上本門寺に乗り入れている都営地下鉄浅草線に、江戸しぐさで車内マナーを訴える公共広告機構の吊り広告がありました。
 「傘かしげ」と「こぶし腰うかせ」です。「傘かしげ」は、すれ違う時に傘を斜めに傾けて譲り合うことです。「こぶし腰うかせ」は、乗り物でさっと座席を詰めて譲ることです。気遣いをいうのですが、江戸の町人は平等の精神で粋にこなしていたのだそうです。
 他にも、
   三脱の教え−初対面の人には、職業・地位・年齢を聞かない。
会釈のまなざし−見知らぬ同士でも、目が合えば会釈する。
うかつあやまり−人混みで足を踏んだ時、踏まれた方も「こちらこそ、うかつでした」という。
七三歩き−道の七分は公道とわきまえて、通行の邪魔にならないように歩く。
章駄天しぐさ−人とぶつからないよう、無理な速さで走らない。
というのがあるそうです。思った瞬間に動くこと、がコツだそうです。すぐ行動する「思いやりの精神」。
 
  去年より多い三が日の人出
 今年正月三が日の人出が、昨年より394万人多い9747万人(主催者発表)だったと、警察庁が発表しました。全国の警察が雑踏の警備をした神社仏閣行楽地1596ヵ所の統計です。
 神社仏閣を訪れたのは3973万人で、統計を始めた1974年以降で最も多かったそうです。明治神宮(東京)305万人(前年比5万減)、成田山新勝寺(千葉)275万人(10万増)、川崎大師(神奈川)272万人(10万増)、伏見稲荷大社(京都)269万人(8万増)、熱田神宮(愛知)232万人(1万減)、住吉大社(大阪)226万人(13万増)、浅草寺(東京)220万人(20万増)、鶴岡八幡宮(神奈川)213万人(15万増)、太宰府天満宮(福岡)193万人(1万減)、大宮氷川神杜(埼玉)186万人(1万増)の順に多かったそうです。
 行楽地では、東京ディズニーリゾート(千葉)30.7万人(5万減)、お台場(東京)19万人(比較無)、汐留(東京)14万人(1.3万減)、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(大阪)13.7万人(0.2万減)だったそうです。
 
  年頭から靖国発言
 小泉純一郎首相は1月4日の年頭記者会見で、「一国の首相が一国民として戦没者に哀悼の念をもって靖国参拝する。日本人の批判は理解できない」と発言しました。
 国内外での首相靖国神社参拝に対する批判を、理解できない、と年頭から表明したのです。「精神の自由に政治が関与することを嫌う知識人や言論人が批判することも、理解できない。まして外国政府が心の問題にまで介入、外交問題にしようとする姿勢も理解できない」とも言いました。
 その言論人から、痛烈な批判が出ました。朝日新聞社発行の雑誌「論座」2006年2月号で、読売新聞主筆渡辺恒雄氏と朝日新聞論説主幹若宮啓文氏が対談し、首相の靖国神社参拝には反対である、靖国神社の存在そのものが問題である、靖国参拝問題の前に戦争責任の所在を明らかにすべきだ、という両新聞の主張を明言しました。渡辺氏は、「東アジアの被侵略国の主張を認める前に、日本人自らの手で罪があったということを認めなければ、相手国も納得できるはずがない。(中略)僕も79歳です。僕らがいなくなると、あの残虐な戦争の実態を知らない人たちばかりになって、観念論争になっちゃうんじゃないかと心配だ」といっています。
 知識人からも、発言が出ています。朝日新聞1月5日号で映画監督ジャン・ユンカーマン氏が、自作「映画日本国憲法」(2005年発表)について語るなかで、こう言っています。平和憲法は奇跡的な根本法だ、GHQの押しつけではなく日本の民衆の中に平和憲法を求める声があった、平和憲法は世界が向かうべき悟りと智慧の極致と映った、人問を大事にする心(を日本滞在中に見出すことができた)、これが本当の姿だと信じたい、平和憲法を崩せばこれも踏みにじられる、と。
 与党からも、批判が出ています。自民党の福田康夫元官房長官は、心の問題というのなら他に方法はないのか、首相という立場では靖国神社参拝に対する制限があるのではないか、そもそも国立の戦没者追悼施設がないのが国家の怠慢だ、と1月17日の毎日世論フォーラム(毎日新聞社主催)で講演しています。谷垣禎一財務相も、中国・韓国との関係をトップリーダーとしてどう判断するか、靖国神社へのA級戦犯合祀は間違った判断ではなかったのか、と同日の日本記者クラブでの会見で話しています。
 
  他人の不幸への敏感さ
 ベストセラー『国家の品格』(新潮新書、2005年11月20日新潮社発行)で、1943(昭和18)年生まれの数学者藤原正彦お茶の水女子大学理学部教授が、現代社会をもとにした画期的日本論を展開するなかで、こう言っています。
 世界が社会の荒廃に苦しむ中で、日本は美的感受性や日本的情緒を誇るべきで、その道徳として「武士道精神」を復活すべきと主張し、
   武士道は鎌倉時代以降、多くの日本人の行動基準、道徳規準として機能してきました。この中には慈愛、誠実、忍耐、正義、勇気、惻隠などが盛り込まれています。惻隠とは他人の不幸への敏感さです。それに加えて「名誉」と「恥」の意識もあります。名誉は命よりも重い。実に立派な考え方です。この武士道精神が、長年、日本の道徳の中核を成してきました。(116〜117頁)
武士道精神は戦後、急激に廃れてしまいましたが、実はすでに昭和の初期の頃から少しずつ失われつつありました。それも要因となり、日本は廬溝橋事件以降の中国侵略という卑怯な行為に走るようになってしまったのです。『我が闘争』を著したヒットラーと同盟を結ぶという愚行を犯したのも、武士道精神の衰退によるものです。私は日露戦争および日米戦争は、あの期に及んでは独立と生存のため致し方なかったと思っております。あのような、戦争の他に為す術のない状況を作ったのがいけなかったのです。しかし、日中戦争は別です。策士スターリンと毛沢東に誘い込まれたとはいえ、当時の中国に侵略していくというのは、まったく無意味な「弱い者いじめ」でした。武士道精神に照らし合わせれば、これはもっとも恥ずかしい、卑怯なことです。(中略)無意味で恥ずべき関東軍の暴走でした。だから天皇、政府、陸軍のすべてが深入りすることに反対したのです。このような弱い者いじめをしたというのは、日本の歴史の汚点です。明治以来、欧米の列強が例外なく弱い者いじめという卑怯に走っていたとはいえ、この日本までがそれにならったということは、武士道精神が廃れつつあったことの証拠です。(119〜121頁)
卑怯を憎む心があれば、弱小国に侵攻することをためらいます。惻隠の情があれば、女、子供、老人しかいない街に大空襲を加えたり、原爆を落としたりするのをためらいます。占領した敗戦国の文化、伝統、歴史を粉々にしてしまうようなこともためらいます。美的感受性があれば、戦争がすべてを醜悪にしてしまうことを知っていますから、どんな理由があろうとためらいます。故郷を懐かしみ涙を流すような人は、他国の人間の同じ想いをも理解できますから、戦争を始めることをためらいます。欧米人の精神構造は「対立」に基づいています。(中略)精神に「対立」が宿る限り、戦争をはじめとする争いは絶え間なく続きます。日本人の美しい情緒の源にある「自然との調和」も、戦争廃絶という人類の悲願への鍵となるものです。日本人はこれらを世界に発信しなければなりません。欧米をはじめとした、未だ啓(ひら)かれていない人々に、本質とは何かを教えなければいけません。それこそが、「日本の神聖なる使命」なのです。(156〜157頁)
といって、高い道徳性の上に「相手を思いやる精神」を日本人が持つことで国際貢献しよう、と提案しています。
 小泉純一郎首相は、靖国神社参拝問題を本年9月の自民党総裁選挙の争点にしない、と言いました。
 靖国神社参拝を「心の問題」と小泉首相は言いましたが、自身の自民党総裁選立候補時の公約に挙げたということは、「政治問題」であることを意味するのではないでしょうか、「理解できません」。
 
  「お寺ルネサンスをめざして」
 1月14日(土)午後10時からの90分番組NHK教育テレビETV特集「お寺ルネサンスをめざして」で、寺院の現状としての過疎地問題について、現宗研の過疎地寺院調査の内容がとりあげられ、それらを克服してがんばっている新潟県の日蓮宗妙光寺小川英爾住職が紹介されました。
 全国8万のお寺にがんばってほしい、という趣旨の番組で、放映後すぐNHKに再放送の希望や問い合わせがあったり、現宗研へも電話があり、報告書を送ったり、お問い合せに応えています。
 
  心寒い時代にこそ思いやりを
 昨年12月の東日本(関東甲信、北陸、東海)と西日本(近畿、中国、四国、九州)は、1946年に地域の平均気温の統計を取り始めて以来、最も低かったそうです。
 気象庁によると、全国29地点が観測以来の最低記録を更新しました。
 明けた1月も、三八豪雪(昭和38年)や五六豪雪(昭和56年)に迫る降雪が続き、戦後4番目の死者が出ています。
 耐震強度偽装事件の解明が、なかなか進みません。この件の姉歯建築士関与マンション第1号といわれるのが、宗務院の近くのグランドステージ池上で、他人事とは思えません。1月17日の衆議院国土交通委員会での証人喚問で、マンション建築主ヒューザーの小嶋進社長は30回も証言拒否をくり返し、安倍晋三官房長官などの名も挙げました。小泉首相がすすめる構造改革は、「官から民へ」ですが、建築に関する審査を民間にまかせたことも問われているのですから、首相の発言と主導が期待されるのですが。政・官・民の癒着が垣間見えるようです。
 インターネツト関連企業ライブドア(堀江貴文社長)の証券取引法違反事件で、東京証券取引所の全取引が停止しました。国内外から、厳しい批判が出ています。
 人口減少が当初の予想より急速に進む、と発表されました。昨年、ついに日本は人口減少に転じました。2050年に約1億人になる、というよりも早い人口減少の見通しが出るそうです。
 団塊世代、その子の団塊ジュニア世代の暮らしぶりがどうなるのかわかりにくいうえに、国民の二極分化が進む分断杜会となる予想の日本、それなら一層、お互いに相手を思いやる社会になってほしいものです。
 大ヒツト上映中のアニメ映画「あらしのよるに」(杉井ギザブロー監督)は、オオカミとヤギの友情をえがいています。敵同士といわれているものの「争い」の悲しさをもとに、敵同士の関係をこえる友情が「和(なご)み」を生むことに共感を覚えるのでしょう、子供から高齢者まで世代・性別をこえた観客で映画館がいっぱいでした。
 自分だけの「癒(いや)し」よりも、自他ともに「和(なご)み」たいものです。これが、聖徳太子以来の和の精神でしょう。他を思いやる和の心でいくなら、争いのない世界、平らかに和む「平和」な社会、仏国土になることでしょう。
 

 
  書籍『本門戒壇の本義』の紹介
 
 本書出版を期に顕正会を除名された著者が、冨士門流の本門戒壇義について、真偽未決御書をほとんど用いずに、「日蓮聖人の戒壇は、正式な国家的手続きを経て本門戒壇を建立することにある」と結論づけています。

 『本門戒壇の本義−日蓮大聖人の御遺命とは何か』
  櫻川忠著 2005年11月15日発行
  発行所 パレード
  発売所 星雲杜 TEL:03−3947−1021
  定 価 1714円+税
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