日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
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宗報 平成17年12月号 第213号 改訂 第45号

男女共同参画・靖国・憲法・過疎・敗戦
日蓮宗現代宗教研究所主任 伊藤立教 

  男女共同参画大臣誕生
 10月31日、第三次小泉改造内閣で、少子化・男女共同参画大臣が、兼任でなく専門任命されました。担当するのは猪口邦子元国連軍縮会議大使。
 平成11年に「男女共同参画社会基本法」が公布・施行され、平成13年に新規設置された内閣府が担当部署となり、男女共同参画局が設置されました。行政のスリム化を進めるなかでの新たな設置は、異例です。このことは、以前にも宗報で紹介し、日蓮宗での男女共同参画の実現に触れました。
 現在の日蓮宗には、女性教師・寺庭婦人などの女性の抱える問題を考えるグループとして、尼僧法団、ジェンダー・フリー研究グループ、女性教師の会などがあります。
 国が専門の担当大臣を置いたことで、男女共同参画という言葉が一気に広まることになります。その基本理念は、
  1、男女の人権の尊重
  2、社会における制度又は慣行についての配慮
  3、政策等の立案及び決定への共同参画
  4、家庭生活における活動と他の活動の両立
  5、国際的協調
で、国、地方公共団体はもとより、国民にも協力が求められています。
 お寺に檀信徒・未信徒が訪ねてきたとき、真っ先に会うのは寺庭婦人、親身の相談に応じるのは女性教師です。何よりも日蓮宗宗制の「寺族寺庭婦人規程」第四条には、「寺庭婦人は、率先して寺族の務めを果し、寺院子弟の教育と後継者の育成に努めなければならない」と定められています。その責任の重さに比べて、その評価は決して高いとは言えないのではないでしょうか。
 この件については、明年2月9日に現宗研が開催する「法華経・日蓮聖人・日蓮教団論研究セミナー(公開講座)」で、宗教社会学者門馬幸夫駿河台大学教授に講演していただきます。詳細は本誌[宗報第213号 改定 第45号]12頁の開催要綱をご覧ください。
 お寺を僧伽共同体といいながら、家父長制的に運営している現状、亡くなれば住職は上人、その妻は大姉とすることに疑問を感じない現状、総じて世間と同じ家制度で成り立たせているお寺の現状を、門馬先生は指摘します。
 女性教師の抱える問題については、現宗研の研究調査項目としてこの5年間取り上げており、今年度は「日蓮宗における男女共同参画」チームを組み、今年度末発行の所報『現代宗教研究』第40号で報告します。
 
  皇位継承は男女間わず
 11月21日、首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」が、皇位継承の順位について、男女を問わず第一子優先とし、女性天皇・女系天皇を認める答申を決めました。この11月24日に首相に提出。政府は、来年の通常国会で皇室典範の改正をめざします。
 神話によれば、皇祖神の天照大神は女性です。歴代125天皇中、女性天皇は10、その始めは33代推古天皇(554〜628)、最近は117代後桜町天(1740〜1813)です。
 毎日新聞の平成13年12月実施世論調査では、女性天皇を認めるべきと考える人は86%、認めるべきでないとする人は7%でした。
 女性天皇・女系天皇を認めようという動きは、前述した男女共同参画に関連したものといわれています。
 日本仏教の出家の最初は、女性僧侶。『日本書紀』によれば、敏達天皇13(584)年、司馬達等の娘嶋(善信尼)が11歳で出家、百済へ渡って戒律を学び、帰国後、女性の弟子を育てたと伝えられています。
 そもそも人類の祖先は、アフリカの一人の女性だそうです。ミトコンドリアDNA遺伝子の研究から分かったことで、「ミトコンドリア・イヴ」と名付けられています。アフリカの原人が進化して新人になったとする「人類発生単一起源説」の根拠となっています。
 「女性の力−伝統芸」という、読売新聞3回連載記事があります。
   女性能楽師第1号が誕生したのは1948年のことだ。それから半世紀余り。この世界へ進出する女性は増えているが、特に昨年は画期的な年になった。昨年7月、女性能楽師22人が、初めて日本能楽会へ入会したのだ。プロとしての実力を認められた証である。12月には、横浜能楽堂で「女による女のための女の能」が開かれた。(中略)男性には男性、女性には女性の表現がある。女性ならではの名作、名演が作られた時、伝統芸は新たな輝きを増す。(平成17年11月9日付東京本杜版)
 
  首相靖国参拝は違憲
 9月30日、大阪高等裁判所で表記の判断が下りました。「国内外の強い批判にもかかわらず、参拝を継続しており、国が靖国神杜を特別に支援している印象を与え、特定宗教を助長している」として、憲法の禁じる宗教的活動にあたると認めた、高裁では初めての違憲判断です。
 小泉純一郎首相の靖国参拝をめぐる訴訟の判決は、平成16年から17年にかけて9件言い渡されています。うち、平成16年4月に福岡地裁も違憲の判断を下しています。
 
  首相、5度目の靖国参拝
 10月17日、小泉純一郎首相は、靖国神社秋季例大祭の第1日目に、5年連続5回目の参拝をしました。
 大鳥居で公用車から降り、参道を歩いて拝殿の前で手を合わせ、賽銭を投じて帰るまで、数分でした。本殿に昇らず、平服で、記帳せず、今までの参拝とは違うかたちでした。
 前月の首相靖国参拝違憲判決から半月後のことで、創価学会機関紙「聖教新聞」も、「A級戦犯が合祀されている靖国神社への参拝は、従来から『遺憾だ。自粛すべきだ』と申し上げてきた。誠に残念だ」(10月18日号)との公明党神崎武法代表の懸念を掲載しています。
 
  国立戦没老追悼施設建設の動き
 11月9日、無宗教で国立の戦没者追悼施設建設をめざす超党派の議員連盟「国立追悼施設を考える会」設立総会が開かれ、参加予定の自民・公明・民主3党議員約130名中、約100名が出席しました。
 会長は山崎拓元自民党(与党)副総裁、副会長は冬柴鉄三公明党(連立与党)幹事長と鳩山由紀夫民主党(野党)幹事長。
 同日、戦没者遺族ら民間人の「英霊にこたえる実行委員会」(会長は堀江正夫元参議院議員)も緊急集会を開き、国立追悼施設は中国韓国に迎合した構想であるとする声明を発表しました。
 この件は、数年前から内閣でも検討を始めていて、全日本仏教会も、「第二の靖国」の懸念を表明しています。自民・民主両党が慎重論で、公明党が積極論です。
 
  石橋湛山師の「靖国神社廃止論」
 前々の宗報10月号でご紹介した石橋湛山師の「靖国神杜廃止の議-難きを偲んで敢えて提言す」に、反響がありました。
 財団法人石橋湛山記念財団発行の「自由思想」第100号(平成17年9月)に、関連記事があります。
   東大大学院の哲学教授・高橋哲哉『靖国問題』(ちくま新書、05−平成17年−引用者註)がベストセラーになっている。(中略)感情問題から入り、宗教教義、歴史認識、文化問題、追悼施設など、専ら精神史的側面に重点をおいた分析を行っている点に特色がある。(中略)国立追悼施設論は賛同が非常に多いし、中韓政府も賛成しているようだが、高橋は警戒的だ。国の歴史認識があいまいなままで国立施設をつくると、再び国際貢献なり何なりの形で死者が出てきたとき、政府または日本にとってだけ都合のいい人を祀る「第二の靖国化」の恐れがあるというわけだ。靖国というより国家の恣意性に対する警戒感だね。以上の結論として、第一に政教分離を徹底して、天皇や首相など国家機関は参拝をしないことをはっきりさせる。第二に靖国は遺族や外国人の合祀取り下げ要求に応ずる。第三に靖国は遺族が望む戦死者だけを祀る一宗教法人として存続する。その上で、特異な歴史観は自由な言論で将来克服すべきだし、「第二の靖国化」を防ぐには、憲法の不戦の誓いを担保する不断の努力で対抗していくほかないと言っている。
 (高橋哲哉『靖国問題』・田中尚伸『靖国の戦後史』〈岩波新書、平成14年〉に取り上げられた石橋湛山「靖国神杜廃止の議−難きを偲んで敢えて提言す」〈『東洋経済新報』昭和20年10月13日号。「石橋湛山全集」第13巻所収、本誌142nに再録〉に触れて)石橋の「国民に永く怨みを残すが如き記念物は、如何に大切なものと難も一掃し去ることが必要だ」という射程が、なお有効なことを示しているね。(中略)石橋自身、26歳の次男和彦を前年にマーシャル群島クエゼリン島で戦死させた遺族だったから、占領軍に迎合したわけではない。早稲田の哲学科と宗教研究科を出た専門家で、日蓮宗僧侶の資格を持つ人だから宗教に無理解な人でもない。(中略)人間は不思議なもので、怨むにせよ頼りにするにせよ、魂の依代として持つとそれに捉われるから、依代としての戦争神社会を廃止せよという意味ではないか。(中略)小泉が靖国問題で「罪を憎んで人を憎まず」と言ったのは、そりゃ被害者側が言うべきことだと笑われたが、靖国問題に関して言うなら「過ちを改めるに憚ることなかれ」と言いたいね。(四氏による「論壇季評」中、156〜159nを抜粋)
 
  自民党の新憲法草案
 10月28日、自民党が現行憲法を大幅に変える内容の草案を発表しました。
 戦争放棄を謳った九条一項は変更せず、二項の戦力不保持・交戦権否認を削除し、自衛軍保持を明記しています。
 全日本仏教会は10月12日に、「憲法改正論議に関する勉強会」を開催しました。児玉暁洋真宗大谷派元教学研究所所長が、「あなたは、主権者として日本国をどんな国にしたいのか?」と題して講演しています。
   念仏者として日本国が地獄(戦争)・餓鬼(貧困)・畜生(恐怖)の無い国であることを希求。また、聖徳太子の17条憲法の精神を持って平和を大切にする法治国家であること。さらに現代世界から殺し合いの連鎖を如何にして断ち、銃を持たない民主主義の国となるような「プラス改憲」の考えを語った。(中略−講演後の質疑応答で)児玉師は現在の第九条の内容を第一条に変更してほしい。マイナス改憲とは、戦争のできる普通の国になることだと述べた。(全日本仏教会機関紙「全仏」2005年11月号)
 憲法は、国の目指す理想をあらわしています。法律は、現実に即した約束事です。
 理想に現実を合わせようとするところには、向上があります。現実に理想を合わせようとすることは、低下につながります。
 努力という素晴らしい資質を持つ「人間」としては、低下よりも向上を採りたいものです。
 不戦平和を誓った現行憲法の理想は、仏教の教えに叶うものです。奪い殺す現実を、和み助ける平和に変えるよう、立正安国世界平和を実践しましょう。戦う知識よりも、戦わない勇気を持ちたいものです。
 
  22年前とちっとも変わらない過疎地対策
 10月19日から2泊3日で、身延山の北側にあたる山梨県早川町の過疎地寺院の実態を再調査しました。22年前の調査と比べるためです。
 過疎対策が何も進んでいない、国指定過疎地域の現状はゴーストタウン化を待つばかり、地域の寺院は廃寺を待つばかり、という現実を目の当たりにしました。
 少子化に関して、人口を増やす方法を考えるのではなく、少子化の現状に立って生活の質を向上させれば、心配なく子供を産もうという意欲が起こって人口増に繋がる、という考え方があります。ヨーロッパの考え方だそうです。
 過疎化に関して、過疎地を無理矢理活性化するのではなく、過疎地の現状を受け入れ、「過疎を楽しむ」という発想に立とう、という考え方があります。今回の調査で訪れた温泉旅館経営者の言です。公共事業を投入した過疎地、観光化させた過疎地は、ますます過疎になるそうです。廃墟になった長崎県端島、いわゆる海底炭坑「軍艦島」を世界遺産に登録しよう、現状そのままを昭和の遺産として学ぶ観光地にしよう、という試みが民間からおこっているそうです。新しく人工的に観光開発をするのではなく、廃墟の現状を利用しようという逆転の発想です。
 来年1月14日(土)午後10時からの、NHK教育テレビETV特集番組の中で、現宗研の過疎地寺院調査が紹介される予定です。上田紀行著『がんばれ仏教!−お寺ルネサンスの時代』(NHKブツクス、2004年6月20日発行)を基本にした、全国8万のお寺ががんばれば日本が変わる、という視点の90分番組だそうで、がんばっているお寺として日蓮宗妙光寺(小川英爾住職)も紹介されます。日本仏教の現状を紹介するなかで、過疎地の寺院の実態が簡単に報道されるのだそうです。
 過疎地の寺院は、人口減少と廃寺を待つばかりですが、それを支える檀信徒の信仰の熱意は盛んです。
 東京では、寺離れ墓離れが進んでいます。「信仰の過疎化」が、始まっています。
 過疎の問題を人口や産業の問題としてでなく、信仰の問題として見ると、過疎過密とは違った視点で教化の方策を考える必要があるでしょう。
 過疎地寺院の問題については、現宗研が調査研究項目としてこの3年間取り上げており、今年度は「過疎地寺院再調査」チームを組み、今年度末発行の所報『現代宗教研究』第40号で報告します。
 
  あの戦争終結から60年
 あの戦争終結から60年の今年、報道・出版・映画・演劇・ドラマ・音楽・講演など、あらゆる分野で特集が企画され、研究・調査・分析・広報に取り組む1年でした。
 この11月に岩波書店から、『岩波講座アジア・太平洋戦争』全8巻刊行が始まりました。
 「戦争の歴史を通して浮かび上がる日本の〈いま〉−敗戦から60年、自衛隊が海外に派遣され、憲法改定も議論されるいま、アジア・太平洋戦争と「戦後」をどう認識するかが問われている。政治・植民地・帝国・ジェンダー・文化・記憶など様々な切り口からその全体像を描き出す」という講座の内容は、以下の通りです。
 第1巻 なぜ、いまアジア・太平洋戦争か
 第2巻 戦争の政治学
 第3巻 動員・抵抗・翼賛
 第4巻 帝国の戦争経験
 第5巻 戦場の諸相
 第6巻 日常生活の中の総力戦
 第7巻 支配と暴力
 第8巻 20世紀の中のアジア・太平洋戦争
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