日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
HOME > 目次 > 宗報より > 平成17年8月
宗報 平成17年8月号 第209号 改訂 第41号

現宗研の研究ノート
 日本のいま、お寺のいま
日蓮宗現代宗教研究所主任 伊藤立教 

 60年つづく平和
 
 お釈迦さまの成道会である12月8日に始まった太平洋戦争が、お釈迦さま以来の仏教行事であるお盆の8月15日に終結して60年。かくも仏教に縁深い日が、多くの人々を死なせ苦しめた戦争のメモリアルデーになっていることを、不戦平和の日本国憲法のもとで続いている60年間の平和の意味につなげて考えてみたいものです。
 ご参考に、高橋哲哉著『靖国問題』(ちくま新書・筑摩書房、2005年4月10日刊)を、是非ご一読ください。
 
 「がん後進国」返上か
 
 さきの6月号「宗報」でご紹介した「がん患者大集合」が、予定通り5月28日に大阪で開かれました。NHK総合テレビで詳しい紹介がありましたが、盛会で、尾辻厚生労働大臣も出席して、具体的な取り組みを明言していました。
 自らの問題を自ら立ち上がって解決していこうとする姿勢が、内外の大きな支持につながりました。行政や現場の不備で大変な苦労があったと思いますが、これ以降のがん医療に大きな貢献をしたわけで、心から敬意を表します。
 
 公益法人の見直し
 
 公益法人の見直し、特に宗教法人課税問題が取りざたされています。
 政府は、公益法人の制度改革を平成16年から具体的に論議し始め、同年「今後の行政改革の方針」(新行政改革大綱)を発表しました。この中の「公益法人制度の基本的枠組み」により、関係法規の改正作業が行われ、平成18年通常国会に関連法案が提出される予定です。これには、公益法人としての宗教法人の課税問題が含まれています。宗教法人の制度改革が議論されるとき、宗教法人の公益性を我々が考え、主張する用意をしておかなければならないのではないでしょうか。
 

 
 お寺の経済学
 
 いま出たばかりの鎌倉新書発行月刊誌「仏事」2005(平成17)年7月号に、慶應義塾大学中島隆信教授のインタビュー記事(前編)が載っています。同氏が書いた『お寺の経済学』に関する内容ですが、宗教法人のありように対する問題提起としてご紹介します。
 お寺の活動を経済学でとらえ、信仰も経済学で分析する、という内容です。宗教界からは経済学への批判が多いが、経済は人々の満足を高めることで、金銭的な満足、宗教的な満足があり、経済学も信仰について語ることができる学問である、という立場です。
 お寺には色々な縛りがかかっているので自由な市場ではない、という関心から入ったのですが、研究対象としての価値が十分にあるそうです。
 
 お寺はすごい商売
 
 現在のお寺は、活性化していない、店に人がいない、と実感したそうです。約50ヶ寺を訪問調査して、檀家が何人あったらお寺の経営が成り立つか、と聞いたら、300かな、という答えだったそうです。たった300人(−原文のまま)で成り立っていてそこそこの年商がある、という業界は他にはないだろうと思ったそうです。しかも、「めったにお客が来ない、300くらいの顧客を持てば成り立っている、これはすごい商売です」
 おそらく市場が競争的になっていないということですが、その善し悪しは別として、経済学からは、「市場というものをうまく活用すれば、もっとみんなが幸せになれるのではないか」
 最近は、お寺にお墓を持たない人が増えているし、お寺離れも進んでいる、戒名料が高いという不平不満や、苦情摩擦が起きているのは、まさに「市場化の流れ」
 市場原理で檀家が選ぶようになっていくのではないか、ということです。檀家制度で安定していた状況が変化し、流動化してきているという受け止め方です。はっきりいうと衰退している、と感じているそうです。
 「最終的には現世利益的な信者寺とか、あとは観光地の観光寺だけが残る。つまり、仏教の教えを広めるための事業所としてのお寺ではもうなくなってしまっている、という感じがします」
 調査した住職も同様のことをいい、これからは厳しいだろう、葬儀や法事で集中的にお布施を集めるのは難しくなる、「コストをかけない檀家さんを増やして、数で勝負する」とも聞かされたそうです。
 産業を活性化させるには新規参入を増やすことが大事だが、お寺はなかなか新規参入ができない市場。新規参入のハードルを低くできれば、新しいアイデアを布教活動に反映させて信者を増やす意欲が出てくる、といっています。
 同氏の親戚の一周忌法事で、檀那寺がないため何かで紹介してもらったお坊さんがお経をあげたあと、立派な法話をしたのでみんな感心したという経験を挙げて、自分も誰かの紹介を通じて良いお坊さんを選ぼうじゃないか、ということになってきたら、それで市場も活性化されるし、教化の意味も出てくるのではないか、といっています。
 
 檀家制度を崩すのは葬儀社
 
 いま自由市場が存在しているのは葬儀サービスのところであって、お寺のほうは固定化している、そこを崩さなげればならない、沖縄ではもう崩れていて葬儀社のカが強い、葬儀や法事を葬儀社を通してお坊さんに依頼する、そうなると能力の高いお坊さんの新規参入、市場に食い込むチャンスが生まれてくる、なかには良くないお坊さんに当たる場合もあるが、それは一般の商品と同様で仕方がない、けれども経済学では、質の良いものと悪いものが混ざっている市場は、「必ず質の良いものが生き残れるような仕組みを自ら作ろうとする」
 それがブランドであったり品質保証であったりする、お坊さん自らがアピールすることができるような仕組みを自分たちで作ろうとしなければならない、宗教の場合は国が入り込めないが、一般の商品なら国が資格試験や品質保証という形で入ってくることで品質が分からないものについての不平不満を解消しようとする、「宗教の場合はそれができないので、みずからやらなければいけない」
 宗派が先頭に立ってやるのは難しい、お坊さんが自ら立ち上がり、「自分こそはちゃんと法話もできる、お経もあげられる坊さんだよということを、自らコストをかけてアピールすることになると思います」
 「自らコストをかけて、自分は良いお坊さんだ、品質の高い葬祭サービスができるお坊さんなんだということを宣伝していく、情報発信をしていく、そういう形になっていくと思いますね」
 「引っ越してお寺を離れれば、自分たちのお寺だという帰属意識も薄れて、市場化してくるというか、その場限りの取引に近くなってきます。普段から自分たちのお寺という意識があれば、お寺にも足を運びますし、互いに顔見知りだし、だいたいこのくらいのお布施をあげて、どのくらいのお経をあげれば、お互いに満足できるかなというのが、みんなわかっていたわけです。それがだんだん崩れてきたというのが根本的な問題だと思います」
 
 世襲制を脱却する
 
 明治以降のお寺の世襲制の悪い面が出てきている、世襲制を脱却するのは無理だろう、個々のお寺を宗教法人化している以上は無理なので、まずは宗教法人化を止めるべきだろう、けれど中央集権的に中央の意向がちゃんと反映されるようになるのは難しいだろうから、個々の「お寺の跡継ぎの能力次第」
 
 お寺のオーナー
 
 オーナーとは、「残りの利益を全部取れる人」。残り物を取れる人は残り物を多くしようと努力する、「それが企業の価値を最大にしようというインセンティブになる」「お寺の場合には、それではうまくいかない」
 人々がお布施をお坊さんに渡すのは、お寺のために出しているという発想、それが非営利法人ということ、といって公益法人に言及しています。
 葬式仏教のお寺の場合、非営利法人でなくてもいいのではないか、実質的に料金が決まっているのだから、これはもう普通の商売、それなら株式会杜にして、「残り物は利益としてポケットに入れます。その代わり、ちゃんとコストは減らします。料金も安くします。税金も納めますという形のお寺があっても悪くない」
 
 株式会社○○寺
 
 オーナーがいないのは、宗教法人だから。「株式会杜としてお寺を経営する人が出てきたって全然構わない。むしろそのほうが、現代人にとってはわかりやすいですよ。宗教法人は固有の財産がないとつくれませんが、株式会杜だったらすぐできますし。そして明朗会計でうちはやりますということで、お坊さん雇うお寺があっても、それはそれでいいじゃないですか」
 「税金を堂々と納めて、利益をとってもいいと思うんですね。株式会杜であれば。世間にはそんなお坊さんにお経をあげてほしくないと思う人もいるかもしれないけれど、そういう人は非営利のお寺を選べばいいわけです。明朗会計で、コストも削減しようと努力しているお寺があるなら、そういうところに頼んでもいいと思う人もいるでしょう。いろんな選択肢があって構わない、今後いろんなところがそうなっていきます、学校が株式会社化するとかね。だけど一方では非営利の学校も当然残るわけで、消費者が選ぶわけです。お寺だって、消費者が選べばいいのですよ」
 以上のように同氏は、檀家制度に基づいた安定はもう限界で、お寺と人々のつながりは流動化し始めている、といっています。
 「仏事」次号のインタビュー後編では、お寺はどうなっていくかの予測と、どうすれば衰退に歯止めをかけられるか、についての握言があるそうです。10月号「宗報」でご紹介します。

 第6回日蓮宗「教化学研究発表大会」発表者を募集しております。詳細は本誌22頁「お知らせ」にてごらんください。
このページのトップへ▲

Copyright (c)2001-2006 Nichiren Buddhism Modern Religious Institute. All Rights Reserved.