日蓮宗 現代宗教研究所
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宗報 平成16年度9月号 第198号 改訂 第30号

現宗研の調査研究ノート
 孫子の兵法に学ぶ
日蓮宗現代宗教研究所所長 田澤元泰 

 現宗研7月の研究例会にて、研究員から『孫子』(そんし)の兵法をもとに、戦略という観点から宗門運動について検討した報告がありました。発表者の資料をもとに、概略を紹介します。
 『孫子』とは、中国春秋時代の呉の兵法家の孫武(敬称として孫子と呼ばれている)が、戦を始めるための戦略について著した兵法書のことです。この書の中で、戦いを始めるにあたり計略を練る根幹について、五事(五つの基本問題)と七計(七つの基本条件)をもとに、敵と味方の優劣を判断することが示されています。
 五事とは、
一、 「道」戦いを起こす大義名分。君主と人民の心を一つにさせること。
二、 「天」相手の兵器や戦力の時間的条件。
三、 「地」行程の遠近、地域の広さや険阻など、地理的条件。
四、 「将」将帥や兵隊の目的意識など器量の問題。
五、 「法」軍の編成、職責分担、物資の管理など、軍の組織力の問題。
 七計とは、
一、 君主は、どちらが立派な政治を行っているか。
二、 将帥は、どちらが有能であるか。
三、 天の時と地の利は、どちらにあるか。
四、 法令は、どちらが徹底しているか。
五、 軍隊は、どちらが精強であるか。
六、 兵卒は、どちらがよく訓練されているか。
七、 賞罰は、どちらが公正に行われているか。
 以上の五事七計をもとに、その場の勢いや、思い込みではなく、総合的に判断する必要があるとしています。その中でも特に重要かつ基本なのは、「道」と「将帥」であり、戦略として見通しをつけ、主と民の心が一体となることが不可欠だといいます。こうした指摘は、現代の戦とも言える企業戦略にたいして、十分当てはまります。
 研究例会の発表者は、現代の事例として、日露戦争と太平洋戦争、日産自動車と三菱自動車の戦略的比較を通して、宗門運動のありかたへと言及しました。三菱白動車と日産自動車の企業戦略の違いは、五事の「道」と対比すると、次のように捉えることができます。
    三菱自動車は戦略目標を「車の安全とお客様第一」としつつも、自社の利益の確保のためにリコール隠しを行った。一方、日産自動車は、「人々の生活を豊かに」を戦略目標におき、昨年に25件ものリコールを実施した。対象数は国内だけでも102万台に及んだが、リコールの影響で利益率の上昇は少ないものの、それでも利益を出した。
 49%も実績を下げた三菱自動車と比べれば、日産自動車の戦略は成功したといえます。その違いは、戦略目標に現れた企業の姿勢の問題だといえましょう。
 「車の安全とお客様第一」という今日現在の問題を目標においた三菱の場合は、目標としてはあたりまえすぎてそれ以上に具体的な展開が難しくなり、結局は企業や部署の保身にはしってしまったといえます。それに対して、日産は「人々の生活を豊かに」と、将来的課題に目標をおきました。車を造ることは車の安全や利用者のためではなく、人々の生活や幸せのためだというのです。企業の姿勢の違いに大きな分かれ道があった、といえましょう。
 いま宗門では、次期宗門運動について、各地域の意見をもとに、伝道部が中心となって伝道企画会議の積み重ねのうえで最終段階に入ったところです。
 日蓮聖人は『立正安国論』を献呈されるについて、『安国論御勘由来』の中で、
   ただ偏(ひとえ)に国のため、法のため、人のためにして、身(み)のためにこれを申さず。
と、その布教教化の姿勢をお示しになっておられます。私たち日蓮宗教師は、宗門のために布教教化するのではありません。立教開宗750年が過ぎた今日、さらなる宗門運動の発動に際して、宗祖の弘教のご精神にもとづき、「お題目総弘通運動」の経験をふまえたうえで、世の中に対して何を目的としているのかという視点に立った、将来的な目標を設定することが、最も大切な事といえるのではないでしょうか。
 『孫子』がいう「敵を知り、己を知らば、百戦危うからず」は、対機説法(たいきせっぽう)のことでしょう。世間の「機根」をよく知ったうえで、かならず法華経お題目を信仰させる工夫が、布教教化でしょう。世間の目線に立つ、のも、このことでしょう。
(この研究例会の詳細は、来年3月当研究所発行の『現代宗教研究』で「研究ノート」として報告の予定です。)
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