日蓮宗 現代宗教研究所
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宗報 平成15年11月号 第188号 改訂 第20号

「師質相承」か「父子相続」か −問われる子弟教育−
日蓮宗現代宗教研究所長 久住謙是 

「師資相承」とは、「師匠から弟子に法脈を伝え、弟子がこれを受け保つこと。師弟の間の法の受け継ぎ。師から弟子への受け継ぎ。」(『佛教大辞典』上巻544頁)のことをいう。
 日蓮宗の「師資相承」の現状はどうであろうか。
 師僧による弟子教育が、世間と同様、時代と杜会の変化の中で、伝統的に円滑に進められていないことが浮きぼりにされているところである。
 そんなとき、興味深い教区教化研究会議が開催された。
 師匠から弟子へ伝承される僧侶教育の伝統が廃れて伝えられなくなった今、「住職学」(教化学)と名づけて、学び、研鑽し、僧侶の資質向上を図ろうとする企画である。
 去る10月9日(木)、兵庫県姫路市国際交流センターを会場として、第33回近畿教区教化研究会議(杉若恵隆教区長・当番兵庫県西部宗務所、実行委員長増井恵広宗務所長)が行われた。
 テーマは、「住職学入門−引導文の教学的知識を深めよう」
 四部構成で、第一部の講義は、日蓮宗全国声明師連合会前会長南條孝仁講師による「引導文について」、第二部の講義は、日蓮宗勧学院院長浅井円道講師による「宗定法要式の引導文の教学的解説」、第三部は、「私のオリジナル引導文」として、発表者有本智心師・和田龍昌師・南條孝仁師が、導師姿で実際に引導文を読んだ。第四部は、パネルディスカッション「引導文を語る」をテーマに、講師・発表者・現宗研所長をパネラーに、コーディネイター難波宏正師によって進められた。
 南條師は、引導文の作り方や読む心構えなど、耳根得道と結んで、引導文の重要性を指導した。浅井師は、新旧の宗定法要式の引導文に逐一的解説を加え、霊山往詣を周知徹底した。
 三師によるオリジナル引導文は、それぞれ異なった引導文で示唆に富み、とくに南條師の口語体の引導文は、新しい時代の教訣文として、参加者の関心を集めた。
 パネルディスカッションでは、講義に学び、見聞したうえで、話し合いが持たれた。
 霊山浄土とは、事実として存在するのか、宗教的な認識なのか、浅井講師への質疑を行い、死後の法華経の救いのこと、葬儀における引導文が大切であることなどが話し合われた。
 教化研究会議は、布教の現場において、実践の中での悩みを持ちより、研究討議し、共通の課題として情報の交流を行い、よりよい教化方策を具体化し、教師と寺院の布教活動をめざす、誰でも参加ができる、布教に関する研究会議である。
 今回の近畿教化研究会議は、師弟の間に継承されなければならない信仰と宗教的儀礼が、廃れてきているという現状を見据えたテーマ設定であった。
 師僧から伝授されるべき事柄が伝授されなくなった現在、それに代替する指導教授の場が、教化研究会議によって用意されたものと理解される。このような形式と内容で開催され、師僧から学ぶべき事柄が、組織的に取上げられ、補完されることが、時代の要請であるのだろう。参加者は例年以上に多く、教師の関心も高かったようである。
 近畿教区では、「住職学入門」テーマをシリーズで取上げてゆくということだ。
 師僧が子弟を法器育成する責任は、自明のことである。
 しかし、考えてみると、今日ほど、師僧による弟子教育の困難なときはないのではないかと思考される。
 往昔の寺院における師弟の法器育成は、今日では望むべくもない。明治政府の布告による妻帯公許、戦後の農地解放、家族制度の変化、戦後杜会構造の変革、歴史的社会的激変、現代人の意識変化、価値観の多様化、宗教不信などきびしい時代環境の中で、寺族が住み、寺院世襲化が進む現状で、現代の出家とは何か、を考えるとき、問題が山積している。
 寺院は発心修行の場となっているか、道念より世襲を優先して、法の相続を軽視していないか。手続書に捺印するだけのぺーパー師僧になっていないか。信行道場入場考査対策を他者まかせにしていないか。
 せめて、日蓮一門の志に生きる信仰の相続者・弘教者をめざす師僧の姿勢だけは、見せておきたいものである。
 前述の教研会議で知られるように、師僧と弟子の「師資相承」は、破綻をきたしつつある。そして、それを補うべき沙弥校・僧風林、本山の随身、各種講習会の開催が期待され、研修の場になっているのが現状であろう。
 その意味で、信行道場入行までの法器育成機関の教育研修の充実、信行道場を出た後の機会あるごとの研修の義務化が求められよう。
 日蓮宗は、在家から出家する僧侶の比率が高いといわれている。
 女性の出家者も、全教師の8人に1人という状況である。
 また、全教師のなかには、手続上の師僧も少なくない。
 宗門は言い換えれば、師弟杜会である。師僧と弟子で構成する組織である。
 激変する杜会に対応する宗門は、何よりも、現代の「師資相承」を構築し、宗門人の意識の変革が求められなければならないと考える。
 日蓮聖人は、三宝の一、僧宝を次のように示されている。
「仏宝・法宝は必ず僧によて住す。………僧有りて習ひ伝へずんば、正法像法二千年過て末法へも伝はるべからず」(四恩抄・定遺239頁)
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