日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
| 宗報 平成15年4月号 第181号 改訂 第13号 |
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拉致被害家族への思い
現代宗教研究所所長 久住謙是
かなり前のA新聞文芸欄だったと思う。
「カナリヤ理論」という記事が載っていた。
さだかでないが、要略すると、
昔、炭鉱の石炭採掘中、坑道にガスが突然吹き出すことがあり、その犠牲にならぬようカナリヤを入れた鳥籠を持参するのだそうだ。
カナリヤは、毒ガスに敏感に反応して、人間よりも先に中毒死してしまうかららしい。
カナリヤが、鳥籠の中でいち早く倒れるのを見て避難し事故を未然に防ぐことができる。カナリヤは犠牲になり、ガス発生を知らせ、鉱夫の安全を守る役割を果たしてきたのである。
このカナリヤの犠牲に習い、反社会的危機に直面したとき、市民に先駆けて犠牲になる覚悟で、「否」と言える良心と勇気を持つことが知識人の責務だという。
これが「カナリヤ理論」という。或る外国の話である。
今日、世界の激変を一語で括るならば、グローバリゼーション(地球化)がふさわしいのではないだろうか。
科学の進歩は、地球上の出来事を瞬時に茶の間に届けてくれる。
経済は国家間を飛び越えて融通無礙に取引されている。
しかし、豊かさの恵みばかりではない。
経済的格差が広がる。環境汚染が広がる。紛争が広がる。国際犯罪が広がる。麻薬やエイズが広がる。そして、テロが広がる。
グローバリゼーションの負の面、社会と心の不安・恐怖が、世界にばらまかれていることも事実だ。
日本も、深刻な問題に直面している。
その一つが、北朝鮮の国家が犯行を認めた拉致問題である。
国家権力をもって日本の善良な市民を拉致した犯罪は絶対にあってはならぬこと。国民の主権を侵すこと、人権蹂躙は許せぬ行為である。
懸案の拉致被害者帰国が実現した。国を挙げて生還を歓迎した。これを機に、家族全員の帰国、拉致問題究明に進むかとみえた。
しかし、無情にも話し合いは中断した。
帰国した拉致被害者5名、その日本の家族、北朝鮮に残してきた家族、不安定な国情であればこそ、家族への思いは一層募るばかりであろう。
身の危険を感じつつ、不本意に人生の大切な時期を生き抜き、奇跡的に帰還はしたものの、残してきた家族への愛別離苦に、再び身を削るような思いであろう。
先日、域る団体の立教開宗七五〇年記念事業報告会に出席した。受付で「ブルーリボン」を胸に付けてくれた。拉致家族を支援する証しであった。
私は、この「ブルーリボン」を勤行の五条袈裟に付け替えた。悲しみを共有せずにはおれない。帰国実現するまで、忘れまいと心に刻み、外交交渉が進展することを切に願っている。
冒頭に紹介した「カナリヤ理論」を想い出すたびに、無力の自分に忸怩たる思いである。
宗祖日蓮聖人は、邪なことによって、世の人びとが苦しむようなことは、日蓮一人の責任であり、自己の苦であると受けとめられた。
正しい教え、立正によってこそ、人の心と杜会に安らぎ、安国がもたらされると教えられた法華経の行者日蓮聖人は、
「仏眼をかつて時機をかんがへよ、仏日を用て国土をてらせ」(定遺1005頁)、と示されました。
グローバリゼーションの時代だからこそ、何が善か、何が悪か、私たちは信仰の主体性をもって行動し、「本仏の大悲」「日蓮一人苦」の同悲同苦の菩薩行をめざすことが御題目の心、現代に生きる者の如説修行であろうと思うのだが………………………。
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