日蓮宗 現代宗教研究所
Nichiren Buddhism Modern Religious Institute
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宗報 平成14年8月号 第173号 改訂 第5号

新しい国立墓苑建設の動きを考える
日蓮宗現代宗教研究所所長 石川浩徳 

一、本宗の千鳥が淵墓苑での法要
 今年も8月15日の終戦記念日が巡ってきた。本宗では毎年この日に、千鳥が淵墓苑において、宗祖日蓮聖人の立正安国の理念に基づき、戦争犠牲者の追悼法要を行い、立正平和を祈り非戦を誓いあってきた。法要は宗務院が主催し、東京四部宗務所の全面的協力を得て、檀信徒や有縁の人々の参加のもと、他の開催団体に先駆けて営まれ、法要終了後には東京四部管内の青年僧を中心に、僧俗一体となっての唱題行脚を行い、平和をアピールする。今年も例年どおり実施の予定である。
 本宗は、戦後いち早く平和運動を展開し、世界立正平和祈願大会を全国的に開催し、戦争中の誤った軍国主義の反省と、再び愚かな戦争を起こしてはならないとの誓いを、お題目信仰運動の中心に据えて、時の管長の教旨をいただき宗務総長を先頭に、全国の僧侶檀信徒が積極的に戦争犠牲者の追悼法要や平和行進を行って来た。今年で42回目を迎える。
 千鳥が淵墓苑には現在約35万体の無名戦士の遺骨が収められている。これは戦後、政府及び民間などの遺骨収集団によって、日本軍が進攻し玉砕したフィリピン諸島をはじめ、南洋諸島や沖縄などで、そのまま放置されていた将兵たちの遺骨が、次々に厚生省に持ち込まれたのを、昭和35年(1960)に、千鳥が淵に国立の墓苑を設置し、鄭重に埋葬供養してきたものである。皇居に近い都心の水と緑に囲まれた比較的環境のいい場所に、墓苑は在る。

二、新国立墓苑建設の意図は何か
 ところで、このところ政府機関で、新しい国立墓苑を建設しようとしている動きが盛んである。その意図するところは、度重なる首相の靖国神社参拝の是非がかまびすしいところから、「千鳥が淵墓苑は遺骨が遺族に引き渡されない方々の施設だ。靖国神社が戦没者への慰霊の中心施設との受け止め方が遺族に多い」(小泉首相)が、靖国神社に対する風当たりもあるからと、小泉首相をはじめ与党三党の考えと、党首会談での意見を踏まえ、宗教色の無い、諸外国の要人にもまた国民のだれもが抵抗無く参拝してもらえる国立の墓地を建設したいというところにあるらしい。ただし新しい国立墓苑は、あくまでも国権の発動により起こした戦争に駆り出されて、国家護持のため戦死した者を、まつる施設を意図しているというのだ。
 厚生労働省が計画し内閣官房副長官が主催する「新しい国立墓苑設置懇談会」なるものが開催され7人の学識経験者から意見を聞くため、今までに5回ほど会議が行われて来たようだ。これは厚生省主導型の懇談会だけに、そのメンバーもおよそ政府の考えに沿った意見を述べ、新しい国立墓地の建設実現に向かっていける基礎固めに役立てるためのものであろう。
 会議の内容を資料によって集約すると、次のような点を論議し、いくつかの問題点が指摘されている。
(1) 靖国神社には明治以来、国権の発動により戦争に殉じた名前のわかっている者のみを祀っている。その靖国神社に代わるものを考えていくのか。
(2) 終戦までは国家が祭祀したが、戦後は政教分離令と信教の自由により、靖国神社も一宗教法人となり国家が介入してはならないことになった。このことが靖国神社をとりまく戦前戦後の国や人々の意識にずれや混同が見られ、問題を起こしている。こうした靖国神社と新しい国立墓苑との関係はどうなるのか。
(3) 政教分離の原則から、首相をはじめ国会議員たちも、公人としては靖国神社へは参拝しにくい状況にある。また、靖国神社は英霊として祀っている。侵略戦争といわれている戦争の主たる指導者(東京裁判でA級戦犯となった戦争指導者)も合祀されていることから、侵略をうけた周辺諸国から抗議が出ている。その低抗を和らげたいためのものか。
(4) 今後、海外へ武器をもって派兵した自衛隊員が、もしも命を無くした場合の祀る場所として靖国神社に代わる施設を建設する必要があるからか。
 以上、疑問を投げかけながらも積極的な反対意見はなかったようだ。
 こうした厚生省の動きに対して、当然、各方面から反論が出てくることが予想される。例えば、靖国神社に固執する議員や遺族会の一部の強い反対。また、千鳥が淵墓苑も国立の施設であり、設立当初には天皇や外国の要人が参拝した経緯もあり、首相や国会議員たちも参拝している。この千鳥が淵との関係はどうなるのか。更には、新国立墓苑が第二の靖国神社になるおそれが十分考えられるところから、政府が意図しているような、国立とか国権の発動で戦死した者を、というのには絶対反対を唱える者も少なくないだろう。

三、本宗の立場と考え方
 前項のような動きがあるなかで、仏教各宗派の中には今後の日本の軍国化を懸念し、懇談会に対して積極的に反応し、新しい国立墓苑の建設計画に対して意見を述べている。全日本仏教会においては、早速「信教の自由に関する委員会」で取り上げ、研究討議をしているところだし、仏教タイムス社では、この件についての宗教界の意見を、アンケート方式で求めてきている。
 本宗では、この問題については、戦後から今日まで積み重ねて来た信仰運動としての立正平和運動の理念に基づいて、千鳥が淵墓苑こそ戦争犠牲者を祀り、反戦平和を誓う場所としてふさわしいとの見解から、次のように考えている。

〈仏教タイムスのアンケート質問項目〉
1、 国家(政府)が、「追悼・平和祈念のための記念碑等施設」を設置することに貴教団は賛成か、反対か、それとも不必要か。その理由。
答)  既に無宗教色の施設として国立の千鳥が淵墓苑があるから、国家が、追悼・平和祈念の記念碑を別に建てる必要はない。
 この千鳥が淵墓苑を、戦争の犠牲者となったすべての霊を祀る場所として整備し充実させればよい。ただし特定の宗教、団体等に直接関係する施設にしてはならない。また、国家護持はあくまで経済援助にとどめること。第二の靖国神社にしてはならない。
 外国の要人の参拝する所として靖国神社はふさわしくないから、別に参拝できる施設や記念碑を建てるというのは、本末転倒である。
2、 仮に新追悼平和祈念施設(碑)が完成したならば、どのような形態が望ましいか。
答)  靖国神社は一宗教法人である。したがってそれを、国費をつかって護持したり、そこに国務大臣が公式参拝することは、憲法の信教の自由政教分離の原則に違反する行為であるのは言うまでもない。
 軍国主義の復活に結びついたり、英霊をたたえるための記念碑(施設)はいらない。千烏が淵に既設されている墓苑そのものを改修整備することで十分である。
 仮に建立するとすれば、怨親平等の仏教の理念にもとづき、軍人とか民間人とかの区別はせず、戦争犠牲者として追悼慰霊供養し、永久に戦争を起こさない誓いを立てる記念碑乃至墓苑とする。
3、 自由意見
    追悼・平和祈念は国家の要請で行うものではない。日蓮宗は、千鳥が淵墓苑ができた当初より、宗門として毎年8月15日に欠かさず法要を行ってきた。それは本宗が、太平洋戦争の犠牲者の霊の追悼慰霊と、戦時中に軍国主義に加担した反省を踏まえ、戦後すすめてきた世界立正平和の理念を運動として推進し実行しているものである。平和主義者たる仏陀の教えをいただく宗門として、不戦の誓いを新たにし世界の平和を祈る法要は、今後も続けていく方針である。

四、むすび
 太平洋戦争においては、国家の方針によって多くの国民がそれに加担させられた、あるいは加担したものであった。その要因は、国家の威信とか政治的経済的に避け得ないものであったといわれているが、勝敗にかかわらず多くの人命を殺傷し建造物を破壊し自然を破壊した反人類的、反地球的行為であったこと、こうしたことを全国民が反省しつつ、再び起こしてはならない、また起きそうな要因があれば無くしていこう、というのが、戦後の憲法に明記された平和の理念である。
 本宗で行っている千鳥が淵墓苑での法要は、無名戦士の追悼慰霊のみならず、無謀な戦争によって命を奪われた彼我にわたる全犠牲者の追善と、いかなる戦争も不条理なものであって、どんな理由をつけても人が人の命を奪う戦争には正義は無い、として戦争を忌避して行っているものである。
 戦争の無い平和世界の実現のためには、国家という名のもとに否応無しに戦争に駆り出されたり、思想・信条の自由を侵されることのない、世の中づくりを目指していかねばならない。したがって、国立という名において、祀られる者を限定し国が管理し司祭するこの種の新しい施設の設置は、必要としないとの考えである。
 命を尊び全世界の平和を希求する仏教思想に従い、戦争に反対し戦争によって人類が不幸になるようなことがあってはならないという慈悲と平等の教えに基づいて、この問題を受け止めていく必要があると思う。
 かくして、今年も本宗では、8月15日、従来の通り盛大に厳粛に千鳥が淵で、追悼法要を営む。
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