日蓮宗 現代宗教研究所
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日蓮仏教の現代科学からの会通
齊 藤 朋 久
 本日、教化学の研究発表大会ということで、かって私が論文発表した中に日蓮仏教を現代科学から会通する、即ち現代科学によって日蓮仏教を理解するという試みをした部分がございましたので、それらの試論を何点か持ってまいりました。
 近年、仏教の教義はそれが持つ世界観と現代科学との近接がよく指摘されるようになってきました。私どもの日蓮仏教もまた例外ではありません。むしろ日蓮聖人の仏教こそ、現代科学の提示する世界観を七百有余年以前に感得、予見されている最たるものと言えます。
 立教開宗七五〇年二〇〇二年を来年度に控えまして、宗門の役割を再考してみると、私ども日蓮宗の大きな使命というのは、現代を生きている現世の人々の実際の悩みや問題に答えていく、そして、人々を救済していくことにあると言えます。この生きた人間を相手にした使命の遂行によって、我が宗門もはじめて生きた宗門たりえるのではないか、ここに、日蓮仏教の現代科学からの会通の重要性と緊急な必要性があります。
 ところで此れらの人類の抱える諸問題は、現代においては、人類の生活が地球規模に有機的につながり、かつその生活が皆が携帯電話を持つように現代科学の最先端の成果の上に成り立っているので、グローバルかつ複雑化しています。したがって、その問題の解決のためには、本宗の教えの現代化と、それが立脚するグローバルな視点の獲得が必要です。なかでも日蓮宗の教義の中心である一大秘法の妙法蓮華経の五字(久遠本仏)の現代的解明とその発展が要請されます。
 また、会通の必要性の大きな理由の一つが、現代をリードする知的エリート達の教化にあります。新宗教、特にオウム真理教がそうですが、その教義は科学的な説明が多用されてまして、そこに入信して幹部になったもの達は、いろいろ悪いことをしたわけでございますが、東大や大学院等を出たインテリが非常に多かったということでございます。エリートの教化は、更に大衆を教化してゆく大きな力になります。
 大聖人の在世中も僧侶は、比叡山等に於きまして必ずしも仏教だけではなくて、最先端のいろいろな学問を研究いたしました。インドのナーランダ大学というところは、ビハール州ラージギールの北方約十一キロに位置する、五世紀初頭グプタ王朝のシャクラーディトヤ・クマーラグプタ(在位四一五〜四五五)王の創建の仏教大学ではございますが、十四世紀頃まで存続し、そこでは、医学、薬学等の勉強もあわせて研究していたということでございます。
 久遠本仏の実態の解明に入っていきます。釈尊の本体である久遠の本仏、それは宇宙そのものであります。宗祖は今此三界合文(定遺二二九二頁)という御書の中に伝教大師の著書を引用されて「釈迦如来は是れ三千世間の総体」と仰せでございます。さらにこの久遠御本仏を大聖人にお聞きいたしますと、「釈尊一人のみの本体でなくして、私どもの全人類の内観である」とされています。即ち観心本尊鈔に「我等が己心の釈尊は、五百塵点、乃至所顕の三身にして、無始の古仏なり云々」とお説きになっているわけでございます。
 これは何を物語っているかというと、大宇宙を本体とする仏の姿、宇宙生命論というものを大聖人が御提示あそばした、それがとりもなおさず、私どもの己心の中に具足しているということであります。
 宗祖は、この大宇宙の生命たる本仏が、妙法蓮華経であると説かれています。即ち、諸法実相鈔には、次のように述べられています。
 「されば釈迦、多宝の二仏と云ふも用の仏なり。妙法蓮華経こそ本仏にてはおはし候ヘ。経に云く「如来秘密神通之力」是れなり」(諸法実相鈔・定遺七二四頁)
 この辺の本仏と私どもの関係をまとめたものが、南無妙法蓮華経の五字ということになります。お釈迦様の悟りイコール法華経、寿量品のご本仏です。それは、三千世間の総体であり現代でいうと宇宙のことになります。その宇宙即ち本仏の内容を大聖人は四十五字法体として詳しくご説明になられた、これを事の一念三千といいます。
 ここで、妙法蓮華経の五字を整理してみます。
 釈尊の悟り=法華経寿量品の久遠本仏=三千世間の総体=宇宙=四十五字法体=事の一念三千=本門の肝心=一大秘法たる妙法蓮華経の五字
 このような本仏と私どもの生命は、マクロコスモスとミクロコスモスとしての関係があるが故に現代科学、特に宇宙論で非常に説明しやすいということでございます。ここに日蓮仏教と現代科学の親和性というものがあるのです。
 ここで以上のことを心、心理学の観点からアプローチしてみます。宇宙というと、物理的な宇宙のことのみのことのように考えられますが、その宇宙の側面の一つが実は、意識なのです。ですから南無妙法蓮華経という大宇宙は、物理的宇宙と生物、人類意識の総和つまりユングの謂う共通的無意識のようなものを合わせ持ったものと言えるでしょう。
 唯識では、そのような根元的意識を九識と云うが、天台におきましては、真如と統合されています。真如はご存知の通り、真如随縁ということで、世界即ち宇宙の星々も、そこに住む生命体も全てそこから生まれてきているという世界の展開原理です。ここで、意識原理から宇宙は生まれたと言えることになります。
 現代の最も有力な宇宙論はビッグバン理論です。これはアメリカの物理学者ガモフが一九四八年に発表したものです。宇宙は一五〇億年前、高密度の状態から爆発的に膨張して今に至ったという理論です。宇宙の始まりは特異点である。空間も時間も物質も全て体積のない一点の状態から始まりました。現代の宇宙論はこのビックバン理論には、まだあまり言われていないわけでありますが、その中に意識も入っています。意識も一緒に一点にあるんだと。それが分裂いたしまして、今宇宙は拡大、膨張しているということでございますが、やがては収縮して一点になっていく。これをビッグクランチというわけでありますが、全てが一点に集約していきます。
 その時に、一者(唯一の存在)である本仏から分身散体して分身仏が生まれてくるという考えであります。分身仏とは、私たち人類一人ひとりの事であり、それが本仏の目となり手となり口となり、宇宙を再創造しつつそのデータを集めます。これらのデータは、宇宙の終わりにビッグクランチという状態になって、一つに集約されます。
 フランスの哲学者である古生物学者のテイヤールド・シャルダンという方が一九三〇年代に『現象としての人間』という著書の中で、次第に私ども人類の意識の共有部分が多くなっていって宇宙の終わりに一体となると言っています。これは、人類意識の進化という意味の成仏であり、人類全体が成仏していくというような概念と言えます。
 このビッグバン理論でおもしろいのは、宇宙の始まりが、一五〇億年と言うことです。無始ということを説くにあたって、法華経では五百塵劫という無限に近い有限な数量で無始と言う時間を説いてありますが、このビッグバンというのもそれに相応するような数量で、永遠を考えさせてくれるのではないでしょうか。
 次にガイヤ理論です。立花隆の「宇宙からの帰還」という著書に、いろいろ書かれているが、宇宙飛行士がスペースシャトルのようなものに乗り宇宙空間から地球を見ると、暗黒の空間に美しい青い地球がポッカリと浮かんで見えます。それを見た時に、「これはみずみずしく生きる生命体そのものだ。地球は一つの生命だ」ということを感得します。その宇宙飛行士の中の何人かがキリスト教の牧師になって伝道を続けているということがあります。このような地球生命観の提唱者の一人にジェイムズ・ラヴロックという方がいる。即ち、地球の酸素の量なんかは熱帯雨林を大量に伐採いたしましても、地球が自動的に調節して酸素の量が変わりませんでした。いろんな人工的な自然破壊を加えても、海の塩分濃度等の生命を維持するための自然条件が変わらない、というような環境の自動調節現象などから見て、地球を一つのシステムとして、つまり生命体として生きているもだと認識するのがガイア仮説という地球生命観であります。大聖人のお考えを宇宙生命観といたしますと、この仮説はまだそこにまで至らないわけであります。地球を一つの本仏とみる思想であるといえます。
(日蓮宗現代宗教研究所嘱託北海道 本要寺住職)

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